第3話 原田という男
勤務三日目にして俺は早くもここでうまくやっていく自信を無くしていた。
「おはようございます。」
「おはよう」
「……」
挨拶に対して、おはようと返してくれる江守さんと、何も返さないルリの対比が美しい(皮肉)
席に着くとパイプ椅子が音を立てるが、それきりその部屋には沈黙が訪れた。
江守さんは今日も数独に勤しんでいる。ルリも同様雑誌をめくる。俺も明日からは何か持ってこようか……、どうせ仕事は来ないし、サボりがバレた所で出世にも関係ないし。
―――――――――――――――――――――――
昼休みになり俺は外出する、駅前のファミレスへと向かって行った。
島根のファミレスはいつでもどこでもガラガラである、それはこの店舗も例外ではない。人入りがそんな具合なので、店内を見回すと、すぐにその男の姿を見つけることができた。
俺は男の姿を見て話しかける。
「久しぶりだな」
男は声を掛けられて初めて俺の事に気づいたらしい
「おお!謹慎お疲れ様ー笑…って、おいおい。めっちゃ元気ないじゃん、ドリンクバー奢ったろーか?」
「変わらないなオマエ……」
この男の名は原田、俺が最も信頼している同期であり、また謹慎期間中に唯一連絡を取り続けてくれた人物でもある。
この口調からも察しがつくだろうが、少しチャラついた風貌をしている。髪は未だに茶色に染めまっていて、片耳には未だピアスをつけている。スーツを着てないとチンピラに間違われそうだ。実際プライベートでも会う仲だが、私服ではアロハシャツ等を着てるので、オフの状態だと完全にソレである(ナニとは言わないが)。
「どうだ?新しい部署は?」
「おう…さいっっっあくだ」
原田は俺の返答に対し、予想通りだと言わんばかりに笑みを浮かべる。
「やっぱりなw、知ってたw」
「おい、じゃあ聞くなよ。」
いやいや違うんですよ、とハラダは続ける
「最悪なのは前提として、雰囲気とか、どんな人がいるのかとか教えてくれよ」
「雰囲気は暗い、向上心はない、会話もモチロンなし、部署のメンバーは、1日中数独やってるやつと雑誌見てるやつの2人だよ」
全て事実であるのだが、原田には信じられないらしい。
「なんだよソレwwまともな奴が行くとこじゃねーな」
「ホントそうだよ……」
ハラダはケタケタと笑っている、不思議な事だが、コイツには自分の置かれてる境遇を笑われても俺は嫌な気持ちがしないのだ。
「あれ?ていうか捜査特設課って、お前含めて3人だけなの?もっといただろ」
「違うんだよ、俺は捜査特設課の中でも資料管理室ってとこに配属されててな、そこの職員が3人なんだ」
さっきまで気持ちの良い笑みを浮かべていた原田の顔が凍り付いた。
「あ?……資料管理室?」
ハラダは驚愕の表情でこちらを見る
「ん?何か俺おかしい事言ったか?」
「いやいや、お前知らないのかよ。捜査特設課の資料管理室っていったら…特設課の中でも特にヤバい奴らが集まってるトコだぞ…」
初耳である。
「は?なんだよソレ……」
原田、説明してくれー!もしかして俺、思ったよりもやばい状況なのか?
「あのな、情報収集くらい普段からしとけよー、まいいや、資料管理室って言うとこはな、絶対仕事が回ってこない部署と言われてんだよ」
「…おお」
「なんでかって言うとな、もうソイツらと他の部署のヤツを事件とかを通じて関わり会わせたくないからなんだよ」
「なんだよ、ソレ…あんまりだろ」
「つまり、アレだな、警察からは追い出せなかったから、せめてそこで定年まで何もしないでいてくれよって奴らが集められてんだな」
「…………」
なんて事だ、自分がまさかそこまでヤバい状況下にいたとは……、ハラダが続ける
「で、2人の仲間の名前は?」
「…それがどうかしたか?」
「それだけヤバい部署にいるって事はそれなりの事をしでかした有名人だろ、何か知ってるかもしれないから名前教えろ、力になるから」
ああ、やっぱりコイツはイイヤツだなぁと実感する。
「江守さんって人とルリって奴だよ」
「江守って…あの江守か?」
「有名人なのか?俺知らないんだけど」
ハラダはコイツまじかよ、という顔をしなながら続ける。
「江守さんといえば、県警でもトップクラスの要注意人物として有名だろうよ」
原田はジッと俺を見て、さらに続ける。
「俺も詳しくはしらないんだがな…江守のやらかしたことは特にやばいらしい。懲戒免職寸前だったとか聞いたことがある。」
なんだよそれ…あの温和な江守さんが?
そんなことを聞くと、あの優しそうな笑顔でさえも全てが嘘のように思えてしまう。
今日はファミレスのクーラーが、いつもより冷たく感じた。
千光年 〜S県警察・特別取扱事件録〜 西崎 碧 @nishizaki
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