第135話 みんなの出発

「…ソラ達はどっかいくのか?」

「おう、遊びに来たところ悪いな。俺たちは今からまだ見ぬ宝物を探しにいくんだ。これから始まる大冒険。この胸の高鳴りが聞こえるか?」

「あー、朝からそんなのいいわ。しんどい」

「ルイ。そんなんだから友達が少ないんだぞ。冒険をしに行く俺たちに合わせてくれないと」


 けっ、朝っぱらから面白くないやつだ。

 話の内容のように俺たちは早起きをし、ラキシエール伯爵家の門近くで準備体操をしている。

 みんなでいっちに、いっちに。俺と向き合い、うちの子みんなで体操中。


 こういう時のラジオ体操。正直小学生の記憶は乏しく、ラジオ体操第一すら怪しい。

 授業でちょっとだけやったことがある第二体操なんてものは元気だなと感じた記憶しか残ってない。

 だからだいたいは俺の思い付き体操。

 そもそもラジオなんてものは無いしな。


 そんな思い付き体操を楽しそうに俺のマネをして動いてくれるうちの子たち。

 可愛いんだぞー。

 必死にマネして、できたら目がキラキラ。リズムなんて基本的に無視で。みんなが十回できたら次の体操。


 まあ、朝からうちの子たちの癒しを充電しているところに来たのがルイってこと。

 何しに来たのか知らんが、うちに子たちとのふれあいを邪魔するとは許せん。


「冒険者がただ冒険しにいくだけだろ。普通は通常営業。だれもそんなわくわくしながら準備体操なんかしてねーよ」


 こいつ朝から俺の精神を削りに来たのか?

 なんてやつだ。こんなにも楽しそうにしている俺たちを否定するなんて。

 だが、すこし図星なのでなんともいいにくい。


「別にいいだろ。てか、こんな朝早くになんだよ。遊びに来たのか?」

「そんなわけないだろ。スレイロンに戻るからカトレアさんとお前たちに挨拶しにきただけだ」

「え?ルイ、スレイロンに戻るのか?」

「一旦な。むこうの仕事もあるし、エドさんにはちゃんとあって話したい」

「なるほど。お土産よろしく」

「いや、いつ戻るかわからんからな?それにスレイロンのお土産とかいらんだろ」

「そんなに長い間行くのか?それと、お土産は気持ちなんだぞ。なんでもはよくないが、なんでもいい」

「わからん。引継ぎして、エドさんとうまく話し合えたらだ。嬢ちゃん。ソラみたいに成長したらダメだからな?あんなに屁理屈、嘘ばかりいう子供になっちゃだめだぞ?」

「おい、そこ。うちのティナに変なこと吹き込むな。信じたらどうするんだ?」


 ルイはティナに近づいて、俺の悪い部分ばかりを吹き込んでやがる。

 ほんと友達がやる行動ではないわ。


「ソラ、いい子だよっ?」


 ティナはルイへ向き、反論している。

 そうだ。ティナもっと言ってやれ。


「いい子なんだけどな。嬢ちゃんには向かないんだ。嬢ちゃんはカトレアさんみたいな美しく気品がある女性を目指そうな。あ、うちのクロエでもいいぞ。あいつは少しだけお転婆だが、それぐらいが可愛い子はちょうどいいんだ」

「カトレアさんもクロエさんも好きー」

「そうだろう?あの二人を目標にしようなー」


 ルイはそういいながらティナを撫でている。

 んー、とろけそうなほど脳内が甘くなるよ。朝から人の惚気なんて聞くもんじゃないな。

 それにしてもカトレアさんとクロエさんか。別に悪くはないが……

 なんか尖っている部分があるんだよな。

 

 カトレアさんはもふもふや可愛いものがなければ普通に目標になる人だし、怒らなければなにも問題はない。

 クロエさんはいい人なのは間違いないけど、どこかおっかないしな。

 んー。難しい話だ。完璧な人間なんていない。そういうことなんだろうな。

 ということはティナは人間ではなく天使ということになるが、この話は長くなりそうなので割愛。


「お前たちも元気でな。食べ過ぎたらおデブちゃんになっちゃうぞ?」

「にゃー」

「わふー」

「きゅ?」


 ならないもんと強く鳴くテトモコ。だめなの?と首をこてんとするシロ。

 君たちは太っても可愛いから別にいいんだぞー。

 それに動く時の運動量がものすごいんだから、心配しなくていいぞー。


 テトは抗議としてルイの肩に乗り、ほっぺテシテシ攻撃。

 モコはしっぽで足をペシペシ攻撃。

 シロもマネしようとするがルイにつかまり陥落。撫でられて嬉しそうにしっぽを振っている。


「まぁーそういうことだ。オレはカトレアさんに挨拶してくるわ」

「おう、さみしくても手紙なんか送ってくんなよ」

「だれが十歳の子供に手紙なんかおくるか。それならクロエに送るわ」

「あー、はいはい。早く行けバカルイ」


 朝からうざいやつだ。

 でも、ダンジョンに行く前でよかったよ。これから数日ダンジョンにこもる予定だしな。

 

「じゃー、俺たちも行きますか?」

「いくー」

「にゃっ」

「わふっ」

「きゅっ」


 今日はみんなやる気十分。睡眠十分。

 今回はサバスさんに数日間家を空けることを伝えている。

 これでなにも問題はないはず……だ。

 

 ないよな?

 んー、昨日カトレアさんとフィリアにも報告した。

 念入りにテトモコシロをブラッシングしたし、装備も綺麗にしている。

 屋台で大量購入もしているし、念のための食材も業者並みにラキシエール伯爵家で発注させてもらった。

 回復ポーションもいけ好かないどこかの公爵家のやつからもらったものがあるし。

 よし、ないな。


「出発だ」


 うちの子合体モコ号でラキシエール伯爵家を颯爽とでて、貴族街を走っていく。

 まだ、日が開けたばかりの貴族街を歩く人、馬車は少なく、俺たちは石造りの道を優雅に走ることができている。

 

 貴族街の門を抜け、帝都の大通りへ。

 さすがに貴族街よりは人が多いが、それでも日中よりはだいぶ少ない。

 屋台や商店はまだ空いている店が少なく、人通りは半分以下だ。


「よし、このまま突っ走るぞ」

「わふっ」


 小鳥の鳴き声が聞こえそうなほど、すがすがしい早朝。

 朝日が心地よく、みんなを乗せて走るモコも気持ちがよさそうだ。

 これは道中の草原も気持ちがいいんだろうな。


 新たな階層への冒険。

 一度行ったことがある鋼鉄の塔だが、やはり未知なるダンジョンを攻略するのは気持ちが高まるな。

 ダンジョンランクはBランク。上級冒険者パーティーが挑むダンジョンだ。

 いくら俺たちが強いからと言っても、なめてかかっては足元をすくわれるかもしれない。


 そんな期待と少しだけの不安を心に抱き、いざ、帝都の門をでて、ダンジョンへ。


「ソラー?依頼は?帰ってきた時に列に並ぶの?」

「あ……ナイスティナ、モコごめん。戻って冒険者ギルドだわ」

「……わふ」


 く、これもダンジョンの罠なのかもしれない。出鼻をくじかれた。

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うちの天使に近寄るな~影と風に愛された死神はうちの子を守りたいだけなんだ~ 朱音 アキ @akixxxx

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