第134話 宝物庫は非効率

「あのー」

「はい。ソラ様ですね。どのような依頼をお探しでしょうか?」


 受付嬢に話しかけると、笑顔で依頼を提供しようとしてくる。

 受付嬢は俺が依頼を受けていないのも確認済みだし、すでに顔を把握していると。

 まあ、わかりやすい見た目、十歳というインパクト。記憶には残りやすいよね。

 手元にあるノートみたいなものを持ちながら、ニコニコ待機している受付嬢。

 

 なんか依頼をしてほしそうな雰囲気だが、俺はそんなものをしに来たのではない。


「冒険者ギルドの倉庫ってみることできますか?」

「……はい?」

「いろんな魔物の素材を見てみたいのですが、倉庫は閲覧可能なのかなーって」

「ちょっとお時間をもらってもいいですか?私の権限では許可できそうにありませんので」

「うん」


 そういうと、受付嬢は後ろの部屋へと入っていく。

 普通そうだよな。

 魔物の素材を見たいといって、はいどうぞーと倉庫に案内するわけがない。

 盗まれるかもしれないし、冒険者ギルドにとってはすべて商品。傷でもつけられたらたまったもんじゃない。

 依頼の品もあるだろうし、なくなったら冒険者ギルドの落ち度だ。


「こんにちは。ソラ・カゲヤマ。そして、ティナリア様」


 数分待って登場したのはまさかのトップ。

 帝都冒険者ギルドマスターであるキアヌ・スプリングが堂々と話しかけてきている。


「こんにちは。ひさしぶりです」

「こんにちはっ」


 俺とティナの挨拶を受け、じろじろと俺を見てくるキアヌさん。

 んー。Aランク冒険者の推薦もくれたみたいだし、問題ないと思ったんだけど、これは厳しそうか?

 俺のことを下から上まで観察するキアヌさん。

 別になにも悪い事しないって。


「それで、倉庫を見たいと言われたのだが、理由を聞いてもいいかな」

「うちのティナは魔物の素材を集めるのが好きなんだ。それで冒険者ギルドの倉庫ならたくさん素材があるだろうからみせてもらおうかと」

「ふむ。ティナリア様の望みなら見せてもいいだろう。ただ基本的に素材は商店、職人におろす、依頼品は依頼人へと決まっているから渡せはせん」

「うん。それでいい。ティナが欲しそうなものがあったら俺たちで採りに行く」

「見てもいいの?」

「見てもいいですよ。ティナリア様。でも今回は特別ですからね、あまり職員以外を倉庫にはいれたくありませんから」


 キアヌさんはティナへ穏やかに返事をしている。

 

 あのー、やっぱり俺の印象悪いですか?

 ほんと、目もなかなか合わないし、俺とティナへの態度違いすぎね?

 なにか?幼女趣味か?きもいぞおじさん。

 

 まあ、ティナリア様って言っているから、幼女趣味ではなく、ティナをモンフィール公爵家の令嬢、マクレンさんのお孫さんとして見ているんだろうな。

 長い物には巻かれろ主義。それは世渡りには必要なことだし、冒険者ギルドなどの大きな組織では必要不可欠なことなんだろうけど。

 あからさまに対応が違うのはやりすぎだ。


 個人として嫌いなのは仕方がないが、こういう仕事上、表面上だけでもつくろって欲しいよ。


 でも、そういう相手にはそういう相手への対応でと俺は決めている。


「では、案内お願いしますね?」


 別に俺も親しみを込めて返事する必要はない。

 割り切るの大事。バイトで学んだ知識がここでも役立つぜ。

 どうしても関わらないといけないけど、なんか合わない。そういう人は仕事をしていると必ずでてくるんだ。

 その時は深く関りはせず、仕事上だけ、パーソナルのことは何も知らないけど、仕事が回るようにうまく立ち回る。

 こういう立ち回りはしないべきなのかもしれないが、できないとやっていけないのだよ。教科書に載ってないことだが必要なことなのでメモしておいてくれ。次のテストにでる。 


「では、どうぞ」


 先をいくキアヌさんの後を俺とティナはついていく。

 

 キアヌさんが開けた扉に入ると、そこには左右に並べられた魔物の素材の山々。ダンジョン産だろうアイテムが展示されている……ことはなく。

 想像よりも小さな部屋で左右に箱、袋があるだけ。


「ここが倉庫の一個だ。帝都には様々素材が集まる。そのため部屋はあと数か所あるが、見せるのは帝都付近の物が集まるこの部屋だけとする」


 よく考えてみればそうだよな。

 倉庫という物を想像して、ゲームの宝物庫のようなものをイメージしていたが、マジックバック、ボックスがあるこの世界で倉庫にそのまま出しておくことなんてあるわけないか。

 誰かに見せる必要もないし、ただ管理だけすればいいならマジックバックに入れっぱなしにしておけばいい。


 少しだけ期待した時間を返して欲しいわ。


「これってどうゆう感じで見て行けばいいんだ?」

「ん?普通にバックから出せばいい。Aランク冒険者ならバックぐらい使ったことがあるだろう?」

「普通に自分たちであさっていいのか?」

「そうしてくれ、ここにはなくなってもいいような物しか置いていない」


 チクチクするような話し方だ。

 キアヌさんはそういって部屋から出ていく。


「見ていいってさ」

「怒ってた?」

「いや、怒ってないよ。俺のことが嫌いなんじゃないかな?」

「んー。それならティナもきらーい」

「そう、おじいちゃんに言ってみよっか。面白いことになりそうだ」


 ティナの嫌い発言。これをそのままマクレンさんに届けてやりたい。

 爪が甘いんだよ。

 ティナを攻略したいならまずは俺とテトモコシロから攻略しないとな。

 座して死を待て。今のマクレンさんはおそらくティナに甘々だぞ。


 という冗談みたいなことはおいておいて。


「宝物探しだぞー」

「宝さがしー」


 棚に置かれているマジックバックの前には紙が貼られており、ダンジョン名。都市名が書かれている、

 ダンジョン名の後には階層も書かれているものもあり、ある程度の仕分けはされているみたいだ。


「うわぁー、これキレイ。これなに?」

「それは確かミカエリって名前だったかな?迷いの森の中層ぐらいにある花なのかな?」


 マジックバックの性質状、名前はかろうじてわかるがさすがに効能効果はわからない。

 生息している場所はマジックバックの前に張られた紙でわかるけど。

 職員さんを雇ってでも一緒にいてもらうべきだったな。


 まさか俺たちだけにされるとは思ってなかったよ。


「この石綺麗」

「んー。それはアナテマっていう石だな。鋼鉄の塔だから鉱山にある鉱石かもな」

「キラキラの石がいっぱいだねー」

「今度鋼鉄の塔に行ってみるか?たぶん採取も何とかなると思うし」

「いいの?」

「もちろんっ」


 俺も冒険者だしな。ダンジョンぐらい行くのは普通だし、Aランク冒険者としてダンジョン踏破ぐらいしておきたい。今のところコトサカ草原が俺のダンジョン踏破成績。初心者ダンジョンどまりのAランク冒険者なんて俺ぐらいだろう。

 それに武闘大会以外にも功績を作っておかないとな。

 鉱石集めて功績集め……


 急に体温が下がった気がするが、こういう時のティナカイロ。

 いつも暖かいティナは俺たちの癒しです。


「みんなでティナの宝物探しにいきますか?」

「いくー」

「にゃっ」

「わふっ」

「きゅっ」


 俺とティナが仲良くしていると、耐え切れなくなったのかテトモコシロが出てくる。

 

「今は俺とティナの時間だろ?」

「にゃにゃー」

「わふわふー」

「きゅー」


 もう終わりでーすとテトモコシロからの終了宣言。

 ただ、自分たちがティナから離れているのに耐えれなくなっただけだろうがな。

 ほんと子供なのか大人なのかわからないうちの子たちだ。


 戦闘とかにおいては圧倒的に俺よりも冷静なのにな。それ以外だとただの甘えん坊の三匹。

 ティナも喜んでもふもふを堪能しているので俺とティナの二人きりはここで終了。

 

 たまには悪くない二人きりの時間。だが、やっぱりこうしてみんなでいる時間の方が楽しいものだな。


「にゃん」

「あー、お腹がすいたか?じゃー屋台巡りで」

「わふっ」

「きゅっ」

「屋台だっー」


 うちの子たちはそのまま部屋を出て行こうとするので、急いでテトモコシロを影世界に送る。

 もう、いきなりもふもふが表れたら不審がられるでしょうが。

 これ以上俺を問題児にさせないでくれ。


 テトモコシロが暴れださないように、ささっと、冒険者ギルドから出ていく。

 

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