チートだらけのかぐや姫

瘴気領域@漫画化してます

チートだらけのかぐや姫

 むかしむかし、あるところに、竹細工職人のおじいさんとおばあさんがいて金色に光る竹を切ったら女の子が出てきたので「なよたけのかぐや姫」と名付け、たいそうな美人に育ったら評判になりすぎて5人の貴公子から求婚されたあたりからお話ははじまります。


 貴公子たちがあんまりしつこく言い寄ってくるので、かぐや姫は5人に結婚の条件として無理難題を押し付け、諦めるように仕向けました。


 石作皇子いしづくりのみこには「仏の御石みいしの鉢」、車持皇子くらもちのみこには「蓬莱ほうらいの玉の枝」、右大臣阿倍御主人あべのみうしには「火鼠の革」、大納言大伴御行おおとものみゆきには「龍の首の珠」、中納言石上麻呂いそのかみのまろには「燕の産んだ子安貝」を要求したのです。貴公子たちの名前をおぼえるのが面倒なので、かぐや姫はこいつらを内心で貴公子ABCDEと名付けました。


 いずれも現代で例えるなら、「銀座の一等地のビルを買ってぇ♥」とおねだりするようなものです。ガチャゲーのレジェンドレアを1000枚集めるよりもむずかしい、と言ったほうが無茶振り具合が伝わるかもしれません。


 さて、3年の月日が流れ、難題の期日がやってきました。


 かぐや姫がいつものように月を見ては嘆いていると、5人の貴公子が家に押しかけてきました。貴公子たちは、手に手に何やら携えています。


 ぶっちゃけ貴公子ABCDEの存在を忘れかけていたかぐや姫ですが、そこは幾人もの貴公子を手玉に取った魔性の女。そんなことはおくびにも出さず、「きゃー! ひさしぶりー! どうしたの? 心配しちゃったー♥」と熟練のキャバ嬢が元常連客をもてなすように対応しました。


貴公子A「仏の御石の鉢を持ってまいりました」

かぐや姫「本物ならば光るはずです」

貴公子A「光りますよ、ほら(ぺかー)」

かぐや姫「マジかよ」

貴公子A「魔力を通すと100倍に増幅して光る仕様です」

かぐや姫「魔力」

貴公子A「錬金術適正SSSの私でも作るのには時間がかかりました」

かぐや姫「錬金術」

貴公子A「研究資金の捻出のために、賢者の石とかエクスカリバーとか色々なものを作りましたよ」

かぐや姫「エクスカリバー」


 仏の御石の鉢とはお釈迦様が使っていたという鉢ですので、作ったのならそれは贋作がんさくなのではないかと思ったかぐや姫ですが、後ろもつかえているので一旦スルーしました。


貴公子B「蓬莱の玉の枝をお持ちしましたぞ」

かぐや姫「高そう」

貴公子B「買い求めるのに巨万の富を必要としましたぞ」

かぐや姫「やっぱり高いんだ」

貴公子B「現代知識を駆使して、手押しポンプやマヨネーズ、ノーフォーク農法などで大儲けしなければとても手が出ないところでしたぞ」

かぐや姫「現代知識」


 貴公子Bも大枚をはたいて偽物を掴まされたんじゃないかと心配したかぐや姫。貴公子Aがなにやら気まずそうに蓬莱の玉の枝をチラ見しています。しかし、後ろもつかえているのでこれも一旦スルーしました。


貴公子C「火鼠の革を持ってきたぜ!」

かぐや姫「火鼠の革なら燃えぬはず」

貴公子C「ああ! もちろん燃えないぜ!(火鉢にぽいー)」

かぐや姫「マジだ、燃えない」

貴公子C「火鼠はキラウエア火山の火口にしか棲んでないからな。捕まえるのが大変だったぜ!」

かぐや姫「キラウエア火山」

貴公子C「ま、全属性耐性SSSの俺様にかかれば、マグマだって温泉みたいなもんだぜ!」

かぐや姫「全属性耐性」


 燃えない革なら中にサツマイモを入れて火に放り込めばいいかんじの焼き芋が作れそうだなあと考えたかぐや姫ですが、さすがに貴公子たちを放って焼き芋を作りはじめるわけにはいきません。あと二人残っているので、その相手が先です。


貴公子D「龍の首の珠を持ってきた」

かぐや姫「龍って実在したんだね」

貴公子D「ああ、前世でドラゴン退治は散々やったが、こっちの龍もなかなか強かったな」

かぐや姫「前世」

貴公子D「異世界に飛ばされて勇者にされて……ま、世界なら5、6個は救ったよ」

かぐや姫「異世界」


 これ以上は掘り下げてもお決まりの展開を聞かされるだけだと思ったかぐや姫は、貴公子Eに話を振りました。


貴公子E「ボクは燕の産んだ子安貝を持ってきたよ!」

かぐや姫「ボクっ娘」

貴公子E「失礼だな。ボクはれっきとした男だよ! ……TSしちゃったけど」

かぐや姫「TS」

貴公子E「ボクの心は男のままだから、女の子が好きなんだ!」

かぐや姫「TS百合」

貴公子E「えっ、なんかボクだけプレゼントについてのツッコミがないんだけど」

かぐや姫「ぶっちゃけ一番難易度低そうだし……」


 これでようやく5人の貴公子全員から話を聞くことができたかぐや姫は困ってしまいました。もともと、誰一人として成功するはずがないと思っていたのです。それがまさかの全員成功。一妻多夫は犯罪になるのか、律令りつりょうを調べなければいけません。


????「あいや待たれよ」

かぐや姫「その声は、まさか!?」

????「ちんみかどである! 朕と結婚せよ!」

かぐや姫「いや、ぶっちゃけもうすぐ月に帰らなきゃなんで、別居婚でよければ」

帝・貴公子ABCDE「「「な、な、な、なんだってー!?」」」

????「フハハハハ! そのとおりよ。かぐや姫は月に帰り我の妻となるのだ」

かぐや姫「その声は、まさか!?」

月の魔王「そう、我こそは月世界を統べる魔王! 前世では勇者にやられたが、今生では同じ失敗はせぬ!」

かぐや姫「転生者枠がかぶった」


 それで、かぐや姫を奪おうと月から魔王軍が攻めてきたのですが、貴公子Eのジョブ「テイマー」によって魔王軍のモンスターたちがすべてテイムされてしまい魔王だけが残りました。いまさらですが、貴公子Eはテイムした燕を魔改造して子安貝が産める個体を作り出していたのです。


 魔王は強く、貴公子ABCDをやすやすとなぎ倒した上に、三種の神拳を操る帝さえも屠り、いよいよかぐや姫とのタイマンに至ったのでした。


月の魔王「フハハハハ! いよいよ決着のときだな、かぐや姫よ」

かぐや姫「そういう趣旨でしたっけ?」

月の魔王「ふっ、我が軍門に降るのであれば、世界の半分をくれてやろう」

かぐや姫「そういう趣旨でしたっけ?」

月の魔王「くくく、貴様を殺して、あの世をくれてやるという意味だがな!」

かぐや姫「会話が成立しない」


 あまりに一方通行な会話に苛立ったかぐや姫のストレスが限界を突破したその瞬間! 不思議なことが起こった!


 かぐや姫の全身からしゅおんしゅおんと黄金のオーラが噴き出し! 髪は天に向かって逆立ち! 溢れ出る気の力によって周辺の大地が隆起しはじめた!!


 そう!!! かぐや姫は真の力に目覚めたのだ!!!!


 真の力に目覚めたかぐや姫は、黄金の荷電粒子砲によって魔王を月ごと吹き飛ばし、地球に平和をもたらしたのでした。


 なお、かぐや姫のオーラによって隆起した大地が、現在の富士山だそうです。


 めでたし、めでたし。

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