リサイクルショップの話

春海水亭

中身入りの中古冷蔵庫 百円

 大学に通ってた時の話なんで、まぁ十年ぐらい前の話なんですけど。


 ウチの近くに二階建ての巨大なリサイクルショップがあって、一人でも友達とでもよく行ってたんですよ。家電とか家具とかだけじゃなくて、漫画とかゲームとか色々置いてあるタイプの店で、立ち読みも歓迎みたいな感じだったんで、本当に暇な大学生の味方でしたね。


 その日も友達と一緒に漫画の立ち読みして、ゲームの試遊台でちょっと遊んだりして、んでいつもタダで楽しませてもらうのもどうかなーと思って、折角だから一人一個なんかいい感じのものを買おうぜ、ってなって二階に上がって服とか家具とか家電とか漁りに行ったんですよ。あ、はい。一階が漫画とゲームが置いてあって、二階が服とか家具とか家電とかの感じですね。


 んで二階に上がって、色々と冷やかすわけですよ。

「お、このジーンズお前に似合ってるぜー!格好いいじゃん!」

「いや、これ子ども用じゃねーか!」

「今年の春は鎖のネックレスと棘のついた銀の腕輪で決まりだろ!」

「世紀末のトレンドかよ!」

 みたいな感じで、まぁ大学生なんて世界で一番調子こいてる存在なんだから、それが複数集まってたら何やってても楽しいですよね。


 まぁ、ファッションのコーナーはあんまりピンと来なくて、家具とか家電の方見に行ったんですよ。

 そしたらデカ目の冷蔵庫……まぁ、俺の身長よりちょっとでかいぐらいの奴ですね。アパートに入れるのが面倒くさそうな奴。そういうのがあって。まぁ、俺らも別に今更冷蔵庫とか欲しくないですよ。大学生って言っても冷蔵庫ぐらいは持ってますし。


 ただ、気になったのは……その冷蔵庫、金額が百円だったんですよ。

 中古って言っても結構新しめの機種で、しかも動作保証もされてる。

 冷蔵庫の扉を開いても、中がめちゃくちゃに汚れてるってこともない。

 んで周りの冷蔵庫だって、普通に五千円以上からするんですよ。


 スペースは無いんで買う気はないんですけど、なんか気になって店員さんに声かけてみたんですよ。


「あの……この冷蔵庫、なんでこんなに安いんですか?」

「ああ、それですか。中身が入ってるからですね」

 店員さん、何でも無いことのように言うんですよ。

 でも、俺ら扉開けて中に何も入ってないって確認してるじゃないですか。

 だから、中身って何なの?って話になるじゃないですか。


「中身って何ですか?開けたけど何もありませんでしたけど?」

「あ、中身何もありませんでしたか……なら別の所に行ったみたいですね」

 店員さん、心底ホッとしたようにそう言って、百円の値札剥がして二万円の奴に張り替えてました。

「もう中身は入っていませんので、ご安心ください」


 で、なんか気味が悪くて、それ以上買い物を続ける気分じゃなかったので帰りました。

 ただ、夜風が異様に寒く感じて……皆で帰りにラーメンでも食っていこうってなって……皆でラーメン屋に寄ったんですね。


「俺、とんこつ……」

「俺も……」

「醤油にしよっかな……」

 まぁ、なんか全体的にテンションが上がらないですよ。

 それでも、一応皆注文していくんですけど、一人だけ注文してない奴がいる。


「お前、食わないの?」

「ダメだわ、もう俺メシ食えないわ」

 そいつ、普段は結構食べる奴で、スプラッタ映画を見た後に焼き肉を食べるような元気がある奴なのに、今日はメニューすら見ないんですよ。


「どうしたんだよ、調子悪いのか?」

「いや、腹一杯で……いや腹一杯じゃないんだけど、なんかさ……」

 そいつ、顔を真っ青にして、ぶつぶつ言いました。


「中身があるんだよ……中身、俺に移ってる、俺の中に移ってる、ヤバい、中身が詰まってる、俺の中に中身がある」

 もう何もわからなくなって、俺達はそいつだけを残して逃げました。

 それから一週間ぐらいして、そいつは死にました。

 そいつ、死ぬまで何も食べなかったみたいです。


 栄養失調では無かったみたいです。

 結局、死因はわからなかったみたいですが。


 中身が何だったのかは、未だにわかりません。

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リサイクルショップの話 春海水亭 @teasugar3g

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