みずみずしい筆致で繋がれる、現世と幽世の物語

 一読してすぐに思ったのは、「清潔な」語り口だなということ。
 登場人物たちがわちゃわちゃ楽しそうにしている時はもちろん、激しい戦いの場面などもありながら、それでもあくまで健康的で根幹がヒューマニスティック。
 退廃的にならない、凛とした風情がいいなと思いました。実に「みずみずしい」。

 そしてもう一つは「丁寧な取材」。本作中に多数散りばめられた海にまつわる様々な角度からの現実のうんちくが、ファンタジー物としての自由奔放な想像の妨げにならず、「錨」になっているというべきか……読者が作中で心遊ばせる足場になっていてくれる。
 例えば港町の悲しい歴史を背景にした「ハクモクレンの約束」。そして密漁という切り口で海の犯罪・犯罪者を描いた「牛鬼と濡女」……と、こう書いてしまうと堅苦しいのですが、そこに怪異たちのおりなす奇妙不可思議な事件が見事にマッチしてくるところが本作の魅力。
 安心して現世と幽世を行ったり来たり出来る、良質な「現代ファンタジー」だと思います。是非ご一読してお確かめあれ。

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