夢
とほかみエミタメ
第1話
「
……とまあ、僕の眼前に突如として現れた女性がこう
ふむ。見た目も若く、とても美人ではあるのだが、
そんな僕の驚きやら疑問etc.なんぞ、全く意に会する様子も見せずに、彼女は
「でもって言わずもがな、ここは皆様ご存知の地獄じゃよ。あの世へようこそなのじゃ、
おやまあ、笑いのツボにハマっちまって、メッチャ
「えー、本日は閻魔大王が夏休みの為に、儂が代理を務めるのじゃ」
「あの、ちょっとすみません。その前に僕の死因が何であったのかを教えてくれませんか? 恥ずかしながら、全く記憶に無くってですね」
「ふん、そんな
「いや、これは流石にどうでも良い事では無いでしょ!
「ええい、お
「ひいっ! ……ええっと、その、口答えとかして、
有無を言わさぬヤーミィの気迫により、つい謝り引き下がってしまった。しかもね、これは比喩的表現では無く、正にヤーミィの顔が鬼の形相に変容したんですもの。
「よし、取り合えず腹が減っては戦は出来ぬのじゃ。儂の行きつけの居酒屋があるから、そこで飯にしよう」
「うっは、
「ああ、心配ご無用じゃ。権力者である儂がOKを出せば、全てが
「
「うむ。と言うかな、普通に24時間営業のスーパーやコンビニも
「ふは! まさかの地獄がハイテク化! てか、死者の世界で未来を生きているとはこれ
「ふっふっふ、他には普通の駄菓子屋もあったりするのじゃぜ?」
「何と! 普通の駄菓子屋ですと! ……って、それって普通に普通ですやん!」
「わっはっは。さて、無駄話もそこそこに、そろそろ居酒屋へレッツゴーじゃ。どうじゃ? 地獄も
「いや、地獄が楽しくてどうする。この世界大丈夫か? もうええわ」
そうやって漫才みたいな会話をしつつ、目的地の居酒屋
尚、この間にもヤーミィとの即興コントが繰り広げられた訳だが、余りにも
「と言う訳で、やっとこさ到着じゃな。ここが居酒屋「
僕とヤーミィが店の入り口に立つと、玄関扉はナチュラルに自動ドアだった。うーん、ここは
そうして、二人が店内に一歩足を踏み入れますと、活気溢れる店員さん達の「いらっしゃいませ」が響きます。
それにしても、外から見た小ぢんまりとした店舗の印象とは違い、店内は物理法則をガン無視した広さである。わあ、流石は地獄の居酒屋だい。
数十人程が座れるカウンター席を中心に、座敷席や掘りごたつ席も相当数完備されている。加えて店は
間もなくして、二人の女の子店員さんが近寄って来て応対をしてくれる。
「やーやー、いらっしゃいませなのだー、ヤーミィ様ー。ここ最近は、連日
「……いらっしゃいませ、なのです、ヤーミィ様……本日は珍しく、お連れ様もご一緒なのですか……?」
「わっはっは、そうなんじゃよ。こっちの連れは新入りの亡者じゃから、一応お主ら姉妹の自己紹介を頼めるかのう」
「やーやー、かしこまりましたなのだー。初めましてなのだー、新人亡者さんー。わちきは当店看板娘の姉の方で、わいらって言いますなのだー。宜しくなのだー」
「……あちきは妹のおとろし、なのです……居酒屋「百鬼夜行」へようこそ、なのです……」
両名共に秋葉原のメイドカフェ風味漂う、可愛らしい制服を着用か。しかも、姉上は和装、妹君が洋装のダブルアタックにて、客を迎え撃つサービスっぷりである。実にあざとけしからん。もっとおやりなさい。
しかし気掛かりなのは、この姉妹が随分と幼く見える事である。見た目だけだとブッチギリで小学生だぞ。この店が
「わっはっは、それでは
「やーやー、おっけーなのだー。二名様ご案内ですなのだー」
「……では、こちらへどうぞ、なのです……」
和風メイド・わいらちゃんがボクの後ろへと回り込み、ぐいぐいと背中を押す側なのに対して、洋風メイド・おとろしちゃんは優しくヤーミィの手を引いてくれる。あらやだキュート。
「わっはっは、先程の姉妹はのう、あげな幼き見た目じゃが、超優秀なスタッフなんじゃよ。そのギャップ萌えが、ほんに
「いや、目の前に貴女と言う存在が居て、ここが地獄にある居酒屋な時点で、もうこれ以上の衝撃はないでしょうよ」
「わっはっは、それもそうじゃな。
「えっと、あの方は鬼の頭領である
「わっはっは、正解じゃ。ではもう一問行くぞ。その
「ええ、
「わっはっは、
「ですね。あの店長は、たこ焼きしか作れない為に、たこ焼きのオーダーが入らない限りは、ああして厨房で立ち尽くし、
したらば、ヤーミィは少し
「さあ、この店に居る客達の顔を、よくよく眺めてみるのじゃよ」
そうヤーミィに
……あっ、あそこに
又、反対の席に目を
遅ればせながら、完全に理解した。
そう、今この場所に存在している、彼・彼女らは、
ふむ、思えば、AIが店員のコンビニだって、実は不思議なお菓子を売る駄菓子屋だとか、
作家になる夢を叶える為に、様々な公募新人賞に作品を投稿してみるも、箸にも棒にも掛からずで、早十年である。
その様な
うぬ。これは単なる僕の夢だ。
そいつを僕が自覚すると同時に、居酒屋店内に居た皆々が、僕に向かって口々にこう語り掛けるのである。「夢を諦めないで」と。
その直後、僕の肩をポンと叩いたヤーミィが、満面の笑顔で
「お主が
ふっ、やっぱメッチャ笑うやん。素敵な笑顔だなオイ。
てか、たった今思い出したよ。
このヤーミィこそ、僕が初めて書いた小説のヒロインだったっけな。
その
……はは、リアルな夢だったな……だが、決して悪い夢ではなかったし、寝起きにも
「……夢を諦めるな、か……よし!」
次の瞬間、僕は体を勢いよく起こし、速攻でPCを起動させ、テキストエディッタを開く。
「……そうだな。何のひねりもない安直なネーミングだが、タイトルは直球で「夢」としよう」
こうして、僕は今一度、物語を
夢 とほかみエミタメ @Tohokamiemitame
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