最終話
淡い青色の空の下に、ぽつりと小さな公園があった。
遊具もなく広場とも呼べないスペースには遊ぶ子供もいちゃつくカップルもいない。公園を囲むように立つ木々は、陽光を遮るように枝葉を伸ばしている。
その木陰に、二人掛けのベンチがひとつ置かれていた。
そのベンチには女性が一人で座っており、もぐもぐと口を動かしている。
膝の上には蓋の開いた小判型の弁当箱が置かれていた。
時折風に揺れて擦れる葉の音が聞こえるが、それ以外に周囲に音はなく、辺りはとても静かだ。
女性は穏やかな晴天にひとつ息をついて「優良物件だね」と呟く。
食事を終えた彼女は空になった弁当箱の蓋を閉めた。
そして隣に置かれた鞄に弁当箱をしまうと、代わりに一冊の本を取り出す。カバーが掛けられていて表紙は見えない。
彼女は背もたれに背を預けて、両手で大切そうに本を開いた。
真っ黒な瞳がゆっくりと文字を追う。
そうしてしばらく静かに読み耽っていると、ふと笛を吹くような声が聞こえて女性は顔を上げた。
見上げた青空には緩やかに円を描く影。その影はもう一度笛を吹いて、応えるように木々が歌う。
流れた微風に彼女の前髪が二本揺れた。
「……うん」
女性は膝の上に本を開いたまま。
両目を細めて、微笑む。
「今日も平和ね」
(了)
透明色パシフィスト 池田春哉 @ikedaharukana
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