第7話


 「さぁさぁ。主さま! お許しを得たあかじろうは今までとは比べ物にならないほど、とっても厳しいですからご覚悟を! 性格矯正から入りましょう!! 腕が鳴ります楽しみです!!」

 

 「いやーだーーーー!! あかじろう! 手加減してくれええええ!!! あおたろううううう!! 戻ってきてくれええええ!!!」


 あかじろうに操られ、斉は絶叫しながら去って行った。

 

 色欲が強い夜凝よごろ家男子は、二体の狗に守られ教育され、繁栄させてきた。二体の手を煩わせず幸せな家庭を築いた男子は誰一人としていない。


 「この度の主さまは、良き相手にすぐに巡り合えたのに、性癖にかこつけてこの体たらく。全く情けない主さまです。あかじろうに任せておけば、不安と誘惑を跳ね除ける力を授かりましょう」


 満足した様に頷いたあおたろうは、玄関をすり抜けた。

 そこには聞き耳を立てていた冬が、ぎょっとして距離を取る。


 「ただいま戻りました」

 

 「あ、はい。ええと、何を話してたの?」


 冬には斉の声しか聞こえなかった。彼がどんな理由でわめいていたのか、全く分からない。

 あおたろうは見上げてにこっと微笑む。


 「夜凝よごろ家の一員になりましたら、教えて差し上げます」


 冬は少し嫌そうな顔になった。


 「ご安心ください。夜凝よごろ家に嫁ぐ女性は誰もがそんな反応をしていました。しかし最後は皆、夫を愛し続け、夫婦円満になりました。きっと主さまも、冬さまから愛想を尽かされないような、素敵な男性になります。もう少々時間はかかりますが、お待ちください」

 

 「……はい」


 可愛いケモミミ子供に男前なセリフを頂き、尊い……と噛みしめている冬。


 「もう少し様子を見てみる」


 これで斉の浮気癖が治れば文句はない。見た目は良いし根は真面目で優しい男性なのだ。冬は恋人に戻れることを心の奥底で期待した。




 後日。斉から直接話がしたいと連絡があった。

 少し距離を開けて斉が恋しくなってきた冬は了承し、近くの喫茶店で待ち合わせる。

 彼の背後にはあかじろうが。冬の背後にはあおたろうが。それぞれちょこんと座って、二人の顔を眺めている。


 「ええと。冬。久しぶり」

 

 「うん、斉、久しぶり」


 斉は今までの女性関係をまっさらにしてきたが、まだ尾を引いている部分があるので、もう少し時間をかけてわだかまりを失くしてから、また冬に告白したいと告げる。

 ついでに、自身の性癖をしっかり暴露した。

 冬も自身の悪い所や注意してほしい点を暴露して、色々考えたが、やはり斉が好きだと告げる。


 顔を真っ赤にした初々しい男女のやり取りを眺めつつ


 「うん。主さま、良い仕上がりになりましたね。流石ですあかじろう」

 

 「あおたろうこそ。伴侶様の気持ちをしっかり主様に傾けておりますね。流石です」


 二体の付喪神は、満足そうに微笑んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくの主さまにひと泡吹かせてやりましょう 森羅秋 @akitokei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説