楽しい食事サクラ

夏伐

幸せ

 手にはフォークとナイフ、目を閉じて五感で楽しむディナー。

 パン祭りの白い皿にきれいに盛り付けたライス。半額で買ったししゃもを豪華にも山盛りに。

 だが問題が一つある。


 一週間前に開店した家の裏に出来た焼き肉屋の事だ。


 一日中もくもくもくもく……。


 洗濯物も、今や畳からすらも焼肉の香りが染みついている。おかげで肉が食えなくなった。


 だが前向きに考えてみよう、このやっすいししゃもも一口食べればカルビの味。白米からも不思議とお肉の味が……!


 そうして家から離れても着ている服から焼肉の香りが。どこにも逃げることが出来ずに俺はどんどんと痩せていった。

 どこまでもまとわりつく焼肉の香りに、いつの間にか意識が遠のいていた。


 俺が意識を失っている間に、親が勝手に部屋を引っ越しをした。俺は前向きに焼肉と向かい合って生きていこうと思っていたのに……。


 しかし……、目が覚めると、豪華な入院食が俺を出迎えた。


 米は味がせず、味噌汁も出汁がきいていない。おかずも美味しくないし、サラダはしなしな。グーグルレビューでも入院食がまず過ぎて星2つ。


 でも味がする。


 俺は久しぶりの楽しい食事に涙を流した。


 あれから数年経ったが今も焼肉屋には行けない。そして俺が病院の口コミに投稿した星5レビューはサクラ扱いされている。なんでや。

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