最終話

「この謎の仮面は要るの?」

「うん。それは両親が先月、海外旅行に行ったときのお土産なんだ」

「じゃあこのモザイクアートは要る?」

「うん。それは親友が去年、26歳の誕生日にくれたプレゼントなんだ」

「じゃあこのサボテンは?」

「うん。それは僕が小学生の時、お小遣いをこつこつ貯めて買ったサボテンなんだ」

「だから長生きしすぎなんだよ」

 年末恒例の大掃除。キッチンやリビング、ベランダや私の部屋はあらかた終了した。

 あとは最後の大物、彼の部屋だけだ。

 彼は自分の部屋のことを宝物庫と呼んでるけど、10年経っても私にはゴミ山にしか見えなかった。

「さて。思い出に別れは告げた?」

「だからそれ悪役のセリフなんだよね」

 私は目に付いた必要なさそうなものをどんどんビニール袋に放り込んでいく。ああ、ああ、と一つ放り込むたびに彼は呻いたが無視だ。

「ふー、今年も何とか片付いたね」

 私は床に置かれた四つの大きなビニール袋の口を縛って、大きく伸びをした。そして毎年のように「そうだね。お別れだね」とゴミ袋を見つめて悲壮感を漂わせる廣井くん。

「さてさて過ぎたことは忘れてパフェでも食べに行こうよ。ゴミ出しついでに」

「まあ、ね。……でもその前に」

 ゴミ袋に向けていた視線をこちらに向けて、彼は言った。


「これで10回目の大掃除だよ」


 彼の言わんとしていることが分かって私は苦笑する。

「……ほんとよく憶えてるね」

「僕、記憶力結構いいから」

 そうだった。彼は昔から片付けられない優等生だった。

 本当に変わらないなあ、と私は笑う。

「キミのままで、とは言ったけど、もう少し片付けられるようになってもいいからね?」

「あと10年あればなんとかなるかも」

「長いなあ」

 私はまた少し笑って。

 そして、覚悟を決めた。

 今更改めて言うのは、それはそれで気恥ずかしいけど仕方ない。約束だもんね。

「では、いきます」

「どうぞ」

 彼は先を促すように左手を差し出す。

 その薬指の光が目に入って、私はもう一度だけ苦笑した。



(了)

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パフェとサボテン 池田春哉 @ikedaharukana

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