プラスチック問題とレジ袋有料化

 レジ袋が有料になって久しいが、あの頃はとある有名な政治家がよく非難されていた。要約すれば、意味のない政策でよくも私たちの生活をいたずらに不自由にしてくれたなというものだ。ここで、政治がどんな理由でこの政策を行なったかは置いておいて、化学者の観点からこの論争を見てみたい。

 まず、なぜ最近プラスチックが悪者扱いされているのか見てみよう。レジ袋やストロー、スプーン、それにカップ麺の蓋を止めておくためのシールまで。ありとあらゆるプラスチックたちが有料化もしくは取り除かれている。もちろん意味なくやっているわけではない。企業のコスト削減という理由も当然あるのだが、表向きには次の二つが理由として挙げられる。

 一つ目。プラスチックは極めて安定な物質であるため、環境に出てしまうと残存してしまう(マイクロプラスチック問題など)。その問題を解決するためにはプラスチックの使用量を減らさなければならないため。

 二つ目。プラスチック製品のほとんどは石油由来であり、持続可能な社会ならびに脱炭素社会の構築を目指す上ではこの使用量を削減しなければならないため。

 両者ともその主張には正当性があるように見える。実際、その通りだろう。一つ目の理由について、最近の研究ではコンタクトレンズにも大量のマイクロプラスチックが含まれている場合があることが分かっているし、ペットボトルも使い古せばプラスチック片を生じさせることが明らかとなっている。二つ目の理由においても、地球温暖化は人類が解決すべき喫緊の課題で、それ以前に、資源のない我が国が何を作るにも石油に頼っているという状況がまずい。

 ただ、この二つの理由は根本的に大きな違いを持っていることに注意しなければならない。これを混同してしまってはレジ袋論争に関しても全く的外れな意見をしてしまう可能性がある。

 そもそもレジ袋を有料化したのは上記二つの理由のうち、どちらを解決するためだったのだろうか。実際の政治家の考えはさておいて、個人的には当然二つともの理由が関与しているものと思っている。そうなると、片方の理由を解決するためにこのレジ袋有料化は意味がないという意見は軽く見えてしまう。

 具体例を出そう。例えば、日本がレジ袋を有料化しても他の国(発展途上国を意味していることが多い)がプラスチックごみを大量に海洋に投棄していては我々の努力も意味がないという意見だ。確かに環境に流れ出てしまうプラスチックごみの総量を減らすという目的だけが先行してしまっては、この政策は意味がないように見えてしまう。しかし、実際は二つ目の理由も含まれているのだから反論としては少し弱い。他国の動向関係なく、我が国はプラスチックに依存した社会を改めなければならないからだ。

 逆に、シール一枚削減したところで現在日本で生産されているプラスチックの全体量と比べれば微々たる量でしかないのだから、削減したところで効果は薄いという意見もある。これは二つ目の理由から意見した内容であるが、今度は一つ目の理由が制約となって反論として主張が弱くなっている(そもそも二つ目の理由に対する意見だとしても暴論なのだが)。

 つまり、レジ袋有料化を非難したければこの二つの理由両方を念頭に置いた意見をしなけばならないわけだ。しかし、現状、感情にまかせて怒っている人の中でそれができていた例はほとんどない。

 どうか、レジ袋が有料化になって反論を考えたことのある人は心の中で自分の意見がどうだったか思い出してほしい。私はこの政策の良し悪しについて言及するつもりはないが、非生産的な意見は価値がないばかりか社会を混乱させるだけなのでやめるべきだと思っている。なので、ここで二つの理由があることを新しく覚えてもらってこれからは意見してほしい。


 この話のまとめに入る。我々がプラスチック問題を解決しなければならないのは大きく二つの理由が関係している。従って、レジ袋問題に関する意見もその両方に立脚したものでなければならないが、それができていないことが多い。そういった盲目的な意見は何ら生産的ではないので気を付けよう、という話がしたかった。


 次話では、プラスチック界隈において、この問題を解決するためにどんな解決策を持っているのかという話をしたいと思う。分解性プラスチックや生分解性プラスチック、耳障りがいいようでまだまだ解決しなければならない問題が山積している現状について共有したい。ちょっとだけ結論を述べれば、結局一番簡単に解決する方法は我々が全員痛みを共有してプラスチック使用量を削減することなのだ。

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科学にまつわるあれこれ クーゲルロール @kugelrohr

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