化学(ばけがく)論争と科学(しながく)?
ちょっと前にX(前Twitter)で化学を「ばけがく」と呼ぶことに関する論争(というものでもないが)があった。私は化学専門の人間になって10年以上が経つため、化学を科学と勘違いされないために「ばけがく」という呼び方をしたことは何度もあり、「ばけがく」読みを知らない人がいることに驚いた側の人間である。しかし、この論争の一連のポスト(前ツイート)を見ていて一番驚いたのは別の点についてだった。それは科学を「しながく」と呼んで言い分けることがあるというものである。
正直、「しながく」なんて聞いたことがなかった。これはあくまでも私の主観的な意見であるが、この言い方をしている人はそんなにいないのではないだろうか。少なくとも化学と科学の言い分けを頻繁に行わなければならない化学分野の中では全く聞いたことがない。
まあそんな呼び方をしてもいいじゃないか。その時はそう思った。しかし、よく考えてみると科学を「しながく」と呼ぶことの意味不明さに気が付いたのでここに示したい。ただし、「しながく」呼びを完全に否定するものではありません。
そもそも化学を「ばけがく」、科学を「しながく」と呼ぶ人がいるのはこの二つが通常、「かがく」と同じ読みをするからである。まずは化学を「ばけがく」と呼ぶ理由について考えてみる。例えば、化学専攻の人は自らの専門を聞かれたとき、科学と勘違いされないようにしなければならない(科学なんてデカい領域で答えるわけないのだから化学なことは自明だろと毎回思うのだが)。なぜなら、科学というのはある意味大きな区分を意味するものであって、この中に化学や生物、物理など小区分の学問分野が存在するからだ。つまり、自分は生物でも物理でもなく、化学をしているということを明確に説明するために、化学を「ばけがく」と言うのである。従って、化学を「ばけがく」と呼ぶことには正当性がある。
では、今度は科学を「しながく」と呼ぶことに意味があるのか考えてみる。まず大前提として理解していただきたいことは科学と化学は同じ土俵にないことである。先程も言及した通り、化学は科学の一部であって枠組みが全く違う。つまり、科学の方が大区分であるため、科学を説明するために「かがく」と言いたくなる場面の方が、圧倒的に化学を説明するために「かがく」と言う場面より多いのである。それでも、わざわざ科学を「しながく」と言い換えてくれるというのだ。これでは化学をしている者としてあまりにも申し訳ない。
何が言いたいのかというと、科学という単語は物理や生物、化学などその大区分の中に含まれている小区分を専攻している者が皆同じように用いる単語である。そのため、科学を「しながく」と言い換えて化学と言い分けするようになると、物理や生物など化学以外の分野の人にも迷惑がかかってしまう。そもそも化学と科学が同じ「かがく」読みだということが問題なのだ。よって、化学をしている者が化学を「ばけがく」と呼んで科学との混同を避けることができれば、大勢の人は科学を「しながく」などという変な言い方をすることなく辞書通り「かがく」と呼んで生活することができる。たまに物理の人が化学の話題を出す時にも、化学に気を遣って科学を「しながく」と呼ぶ必要もないということである。
大区分の言い方を変えるよりも小区分の言い方を変えた方が混乱する領域は小さくて済むというのが私の主張だ。そもそも化学を「ばけがく」、科学を「しながく」と呼んで誰も「かがく」と呼ばなくなれば本末転倒ではないか。化学の方が「ばけがく」という呼称を使って我慢してやるので、「しながく」などという変な呼び方はするなと言いたい。
さらに、化学を「ばけがく」と呼んでも違和感がないのは、化学には確かに「化け」の要素があるからだ。化学では化学反応を介することで見た目や臭い、触り心地などが全く違う別の物質を作ることができる。まるで元々の物質が化けたかのような現象が起こるため、「ばけがく」という呼び方もすっと入ってくる。
一方、「しながく」というのは科をただ訓読みにしただけではないか。「しな」という言葉が科学という単語を上手く表現できているとはとても思えない。
結論を述べる。科学と化学は確かに同じ「かがく」という呼び方をするため混同することがあるが、それは化学が「ばけがく」という呼び名を受け入れて解消するので、科学は「しながく」などという変な呼び方をする必要はない。呼び方を変更することで影響を受ける範囲が化学の方が小さいことと、「ばけがく」読みが「しながく」読みよりも単語の意味を上手く表現できていることからこの主張には妥当性があると言えるだろう。
ちなみに、私が一番困っている呼び方で起こる誤解は「工学部」と言うと半分くらいの割合で「法学部」と聞き間違いされることである。私の滑舌が悪いためなのだろうが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます