想いを馳せながらのカクテル言葉

御厨カイト

想いを馳せながらのカクテル言葉



はぁ、今日も疲れたな。

まさか、上司の尻拭いをさせられるなんて思ってもいなかった……


こういう疲れが溜まった日は行く場所は決まっている。




カランコロン



「あ、いらっしゃいませ!今日も来て下さったんですね。いつも贔屓にしてくださってありがとうございます。」


「アハハ、こちらこそいつも美味しいお酒をありがとう。」


「うちのお酒も気に入ってくださっているようで、凄く嬉しいです。」


「まぁ、それだけじゃないけどね。ここに来るのは。」


「え、そうなんですか?」


「あぁ、君に会いたいからだよ。」


「……うふふ、航さんってそんな冗談も言うんですね。少し意外です。」


……今日も華麗に流されてしまった。

少し悲しい。


だけど、この空気感もこのバーに来る1つの理由だな。


……いや、まぁ、一番の理由はバーテンダーの渚ちゃんに会うためだけど。

渚ちゃんは癒しだからな。


「今日は何をお飲みになりますか。やはり、いつものですか?」


「あー、今日は渚ちゃんのおススメが飲んでみたいな。」


「私のおススメですか?珍しいですね。でも嬉しいです。私と貴方で『好き』を共有できるようで。」



そう嬉しそうに言いながら、「少々お待ちください。」と渚ちゃんはお酒の用意をする。



最初に何が出てくるのか、楽しみだ。



少しして




「お待たせしました。スクリュードライバーです。」


「スクリュードライバー?」


「えぇ、オレンジジュースとウォッカを合わせたカクテルです。すごく飲みやすいんですよ。」


「へぇー、そうなんだ。それじゃあ、早速……」


一口飲む。


「あ、ホントだ。すごく飲みやすい。そして美味しいな。スイスイ飲めそうだ。」


「そう言っていただけて良かったです。ですが、気を付けてくださいね。飲みやすい割に度数が高いですから。」


「あ、そうなんだ。意外だな。」


「と言っても私はあんまり最近飲んでないですが。」


「そうなの?」


「えぇ、私はお酒についてはその気分にならないと飲まないんですよ。その日によっていろいろお酒を変えるのはある種の職業病かもしれないです。」


「へぇー、なるほどね。なんか、かっこいいな。」


「うふふ、そうですか?ありがとうございます。」


「いやー、それに加えて俺は何してるんだろうな。毎日毎日パソコンに向かって、社会の歯車となってるのって……あ、ごめん、急に愚痴言い出しちゃって。」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ。別にここにはその会社の上司さんとかがいるわけじゃないので思う存分言ってみてください。愚痴上等です!」


「あはは、渚ちゃん、ありがとう。でも流石に年下の女の子に愚痴を聞かせるほど、おじさんメンタル強くないから。」


「航さん、おじさんていうほど年取ってないじゃないですか。見た目もかっこいいですし。」


「いやいや、30代手前はもうおじさんだよ。でも、そう言ってくれてありがとう。」


「むぅ、本当なのに。」


「あはは、ありがとう。……あ、そうだ、今日は渚ちゃんも飲まない?」


「えっ、私も頼んでいいんですか?」


「あぁ、奢るよ。」


「わぁ、ありがとうございます。それじゃあ、いただきますね。……ふふっ、今夜は特別になりそうです。」


「何か言った?」


「あ、いえいえ何でもありません。じゃあちょっと準備しますね。」



そうして、また渚ちゃんは後ろを向いて準備をする。



「よいしょっと、それじゃあ乾杯しましょうか。」


「お、そうしようか。」


「それじゃあ、今日もお疲れ様です、乾杯」


「乾杯」




チリン




「あ、そんなに一気に飲んだらダメですよ!さっき言ったじゃないですか、飲みやすいけど度数は高いですって。」


「あ、いや、そうなんだけど、今日は君のおススメを沢山飲みたいなと思って。」


「……分かりました。では私の全てを貴方にさらけ出します。覚悟しておいてくださいね。」


そう言い、彼女はニヤリと微笑む。


「それはそれは凄く楽しみだ。」


「フフフ、それじゃあ次はライラです。ウォッカとコアントロー、ライムジュースのカクテルでこれも大分度数が高いので気を付けてください。」


「ほうほう、……これは大分強いな。でも美味しい。」


「それは良かったです。……そう言えば、ずっと聞きたかったんですが……」


「うん?」


「えっと……、航さんって彼女さんとかいるんです、か?」


「え、急にどうしたの?」


「い、いや、ちょっと気になっちゃって……。」


「物好きだね~。……彼女なんていたらいつも、と言うか毎週来ないよ。」


「え、ほ、本当ですか?」


「あぁ、本当だよ。……悲しい事に。」


「で、でも貴方は凄くかっこいいですし、優しいですからずっと気になっていたんです。……もしいたらどうしようかなって。」


「いやー、人生はそんなに甘くないね。……そうだ、渚ちゃんこそどうなの?何か良い出会いとか無いの?」


「私ですか?うーん……、私は生憎、ここで働き始めてからいませんね。お客様からそう言うお誘いを受けることもあるんですが、滾るほどの素敵な出会いはほとんどありませんね。」


「ほとんどっていう事は……ちょっとはあるの?」


「もう、女の子の揚げ足を取るのはナンセンスですよ。」


「あぁ、ごめんね。」


「まぁ、いいですけど……。そうですね、確かに航さんが言う通り1回だけあるんですよね。」


「あ、そうなの?」


「えぇ。まぁ、それが誰なのかというのは聞き流してください。簡単に分かっちゃうので。」


「ほぇー、そうなんだ。ちょっと気になるけど残念。」


「うふふ、よし、それじゃあ次でラストにしましょうか。私もそろそろ上がりなので、最後にとっておきの物をお出しさせていただきます。」


「お、楽しみ。」


「最後はこちらシェリーです。まぁ、と言っても普通の白ワインなんですが。」


「……なんか、出す順番おかしくない?」


「確かに度数に関してはメチャクチャなんですが……、航さんってカクテル言葉というのを知っていますか?」


「カクテル言葉?」


「はい、花言葉については知っていると思いますが、それのお酒版です。渡す花に意味があるように、頼んだお酒にもちゃんと意味があるんですよ。」


「へぇー、そうなんだ。」


「そうなんです。意外と調べてみたらすごく面白いですよ。」


「なるほどね。それじゃあ、このお酒たちにも意味があるの?」


「えぇ、私が今日出したお酒には、全て裏に想いを伝える言葉があります。」


「……想い?」


「はい、まず最初のスクリュードライバーは『貴方に心を奪われた』、次のライラは『今、君を想う』、そして最後のシェリーは……『今夜は貴方に全てを捧げます』」


「!」


「……うふふ、その様子だと何も知らずに飲んでいたようですね。」


「……」


「それに……、いつもより強く作ったのにも気づかないで、そんなに赤い顔をして、まったく……。……おっと、そろそろ時間のようですね。私は上がらせていただきます。」


「えっ?」


「『えっ?』じゃないですよ。私の想いは伝えたのであなたがやることは一つでしょうに。ほら、早くそこのコートを持って。帰る用意してください。」


「お、おう。」


「それじゃあ……」








「貴方の声がよく聴こえる場所に移動しますよ。」









……彼女の顔が妖艶に笑ったように見えたのは、多分酔いのせいでは無いのだろう。
















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想いを馳せながらのカクテル言葉 御厨カイト @mikuriya777

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