恋人が語り合うだけの、これ以上ない恋愛劇

 大晦日の夜、美沙とその恋人である裕一は、ふたりで鍋をつつきながらとりとめない言葉を交わす。ふたりは話しながら時を過ごし、やがて年を越して。嫌な初夢を見たという裕一の話をきっかけに、美沙は新年の決意を表明するのだ。

 ちょっとラフな感じで弁が立つ裕一さんはツッコミ兼フリ担当、のんびりとした感覚派な美沙さんはボケ兼オチ担当。裕一さんが撃ち出す言葉の弾丸を美沙さんがふんわり曲げたりすかしたりして、それにまた裕一さんがツッコんでいく会話形式は、言うなれば練れた漫才の美しさがあって実にすばらしいのですよ。しかもふたりの強い関係性がセリフの真ん中から匂い立って、実に微笑ましい。

 ふたりを眺めているだけでほっこりするのですが——ラストがですね、最高! 美沙さんが導くオチには落語的なカタルシスがあって、「もうええわ」とぶった切らせない、なんとも心地よい余韻を魅せてくれるのです。

 できることなら炬燵でじっくり読んでいただきたい、愛と笑いに満ち満ちた一作です。

(「行く年と来る年と」4選/文=高橋 剛)