外伝2-9.私、幸せよ(最終話)

 前世の私が聞いたアウエンミュラー侯爵領への襲撃は、僅か一週間で幕を閉じた。それも、アウエンミュラーの悲劇ではなく、アルブレヒツベルガーの功績として。


 鉱山も坑道も、そこで働く領民達も無事との連絡が入った。国王陛下も軍を動かしてくださったけれど、手前で大公家の軍に邪魔されたらしいわ。なんでも、連携が崩れるから邪魔だ、とか。そのまま陛下はこちらに転進して、途中で騎士団を返した。そのため、お茶会は国王陛下ご臨席となっている。


「いくら兵力が足りておろうと、国王自らの出陣を邪魔と言い切るのはどうかと思うぞ」


「勝利する直前に現れて、功績だけ奪われたら困る。そう考えた臣下の気持ちも理解してくれ。タイミングが遅過ぎた」


「そう言われても、軍を動かすと貴族がうるさくてな。あんなに安全な後方にいながら、もし騎士団が留守にした間に王都が攻め込まれたら……と泣きつくのだぞ。鬱陶しい」


 いい歳の大人がみっともないと、国王陛下が嘆く。それをロッテ様が一刀両断に切り捨てた。


「だいたい貴族が多過ぎるわ、今回邪魔をした貴族を降格しましょう」


 恐ろしく思い切りのいい発案だが、誰も賛成しない。そう思った私を置き去りに、アンネが「いいですね」と微笑んだ。当然アルノルト様も賛同する。


 うーんと唸った国王陛下は妻の意見を採用した。


「よし! それで行こう!! 今後は俺の邪魔をする奴が減るだろう」


 それって八つ当たりじゃない? 心配になってヴィルの顔色を窺うと、彼は友人から貴族の家名を聞き出して頷いた。


「その辺は役立たず確定だ。処分しろ」


 背中を押してしまった。常識がないのは、私の方なの? 遊んでいた子ども達が駆けて戻ってくる。用意したタオルで汚れた手や顔を拭い、お菓子を渡した。


 お礼を言って口に入れるフィーネに、アルフォンス王子殿下が、お菓子を分けている。これって餌付け? 作戦としては悪くないわね。あ、ヴィルが張り合ってるわ。


 目の前に広がるのは、平和を具現化したような光景。美しく調和の取れた屋敷や庭を見ながら、美味しいお茶を飲み、友人達と笑い合う。過去の私には望むことも出来なかった夢のような世界だ。


 隣国は無事に撃退して、賠償金請求も行われている。国王陛下が周辺諸国に事情をバラしたため、言い逃れることも出来ずに承諾した。国家予算3年分の大金が入ってくる。これを領地の繁栄に充てるため、あの土地が豊かになるのもすぐだろう。


 過去の私が憂えたすべては、丸く収まった。幸せは目の前にいて、私にお菓子を強請る。フィーネもエーレンフリートも、誰より愛している夫ヴィクトールも。望んだ以上の幸せに浸った。


 見上げる空は、前世の絶望の中で見たのと同じ。白い雲が流れる青空だった。鳥が一羽横切り、名前も知らない小鳥の囀りが耳を擽った。


「私、幸せよ」


 前世の私にそう伝えた。あなたの未来は明るいわ。ほら、私の望んだ全ては手の中に。








   The END or……?










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 外伝も終わり、完結となります。長くお付き合いいただき、ありがとうございました。皆様の応援に心より感謝申し上げます。



【新作】世界を滅ぼす僕だけど、愛されてもいいですか


愛の意味も知らない僕だけど、どうか殺さないで――。

「お前など産まれなければよかった」

「どうして生きていられるんだ? 化け物め」

「死ね、死んで詫びろ」

投げかけられるのは、残酷な言葉。突きつけられるのは、暴力と嫌悪。孤独な幼子は密かに願った。必死に生きたけど……もうダメかもしれない。誰でもいい、僕を必要だと言って。その言葉は世界最強と謳われる竜女王に届いた。番である幼子を拾い育て、愛する。その意味も知らぬ子を溺愛した。

やがて判明したのは残酷な現実――世界を滅ぼす災厄である番は死ななければならない。その残酷な現実へ、女王は反旗を翻した。

「私からこの子を奪えると思うなら、かかってくるがいい」

幼子と女王は世界を滅ぼしてしまうのか!


恋愛要素が少しあるファンタジーです(*ノωノ)

2022/05/01、予告公開

2022/05/03、連載開始

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