第5話 アヨンサとの再会

 空気がいつもと違う。


 さっきまでの生温さが清涼感に変わった。

 金色のシャワーは見えないが、そこには、アヨンサの気配を感じる!


『目を凝らしても、もう僕は見えてないね。でも、聴こえるだけでもスゴイ事だよ。大人になると、大抵は、僕らの存在を忘れてしまうから』


「アヨンサ、君だね!僕はやっと思い出せたよ!君のおかげで、惣吾は去年結婚して、もうパパだよ。相手は、悔しいけど、僕もずっと好きだった女性なんだ」


 僕は、会えなかったうちに起きた事全てを話したかったが、一番大切な所だけをかいつまんでまず話した。


『そうか、良かった。幸せそうだね、惣吾君』


「そうなんだ、僕よりずっと人生を謳歌しているよ!僕はそんな惣吾を見ていられるのが嬉しいんだ!」


『君は、僕との約束を覚えている?』


 70歳を2で割ると35歳ずつだけど、それは例えばの話で、元々の僕の余命が60歳だった可能性も有る。

 とすると、あとお互い数年かしかない。


「アヨンサ、もう一度お願いしていいかい?惣吾の子供はまだ生まれたばかりだから、惣吾はまだ生き続けて欲しい!僕の余命の全てを惣吾に引き継いでもらって!」


『今回は、哀しい選択を君に迫る為に、僕が現れたんだ。君なら、そう言ってくれると信じていたよ』


「哀しくなんかないよ。これからはアヨンサとずっと一緒だから!」


 子供の時に読んだ『人魚姫』と『幸福の王子』、どっちも子供の僕には、どうして自分の命を捧げてまで、他の誰かの幸せを優先させるのか分からなかった。


 けど、今なら分かる!


 大好きな人達が幸せでいてくれる事、イコール、僕の幸せなのだと気付いたから!


 その為に、僕の命が役立つなら、何を厭う事など有ろうか?


『君の目からは見えてないのが残念だけど、僕の身体は今、金色に輝いている。僕は、君の精霊として存在していて光栄だよ。もうじき、目にするもの全てが神々しい世界へ君を連れて行くけど、覚悟はいいかい?』


「ありがとう、アヨンサ。是非、道案内お願いするよ」


 僕の食べかけのスイカを目がけ、ミヤマクワガタが飛んで来ていた。


 さあ、好きなだけ、お食べ。


    【 完 】

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願わくは、一緒にいたかった ゆりえる @yurieru

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