嘘で飾っての出会い。そして、定められていた出会い。
二人の出会いは運命的なものではなかったかもしれません。
それでも私は、この二人は運命で結ばれているのだと固く信じています。
お互いがお互いを鼓舞して、成長させていく。そしてそれが、ゆくゆくは国を良くすることに繋がっていく。
世界の方が、彼らが出会うことを求めていたような。そう感じられてならない恋愛が、この物語では描かれています。
そうなんです。この物語の魅力は、恋愛だけではないのです。
もちろん恋愛要素もばっちりで、二人の距離の縮まり方にどきどきしたりわくわくしたりと、恋愛物語としての読みごたえも抜群です。
しかし私が何よりも惹かれているのは、二人の恋や二人自身を成長させていく濃密な展開の数々と、その土台になるしっかりとした世界観です。
二人を待つ障害は、国規模の問題です。
戦争が起こるかもしれない。それを止められるのは、ここにいる二人だけかもしれない。
鬼の王の若君である碧霧の立場と知力、そしてそのパートナーとなることを求められる姫の胆力と能力。
二人はお互いの持てるもの全てを出し尽くして、国を導いていく。
それが本当に面白いんです。
一つ一つの展開が丁寧で緻密であり、説得力があります。
文章も端正で読みやすく、いつも気づけば夢中になっています。
読んで後悔することのない物語が、ここにあります。ぜひ、この面白さを分かち合ってください!
あやかしの国「阿の国」の北部を統治する王の息子、碧霧。
彼は身分を隠して出掛けた先で、紫月という女の子と出逢います。
高貴の身を明かすわけにはいかない碧霧は、素性を隠します。
一方の紫月も、とある事情を抱えていました。
そのため、二人は探り合いのような逢瀬を重ねます。
出逢った瞬間から惹かれ合っていたような二人ですから、読者としては、この恋愛はうまくいくと安心しております。
隠しごとをしているからこその遣り取りは、面白くもあり、まどろっこしくもあり。
楽しく読み進めることができます。
けれど、物語が進むうちに、恋を実らせることは、始まりに過ぎなかったのだ、と感じるようになりました。
碧霧は、王の息子として。
紫月は、彼女の事情に関することで。
互いに秘密にしていた「それぞれが抱えている運命」。
これを「一緒に背負っていく」ために、二人は愛を育んでいるような気がしてきました。
守るだけじゃない。守られるだけじゃない。
手を取り合う相手がいるからこそ、背負わされた運命にも立ち向かえるのではないかと思います。
最新話では、天真爛漫な魅力で紫月が周りを圧倒させ、苦労人としかいえない状況の碧霧が水面下で着々と準備を進めている模様――。
この二人だからこそ、の展開を期待しております!
また、この作品は、『九尾の花嫁』『藤の花恋』に続くシリーズとなっていますが、作者様曰く、「どの作品から読んでも大丈夫」だそうです。
そのお言葉を信じて、私はこの『月影を統べる王と天地を歌う姫』から読み始めました。
そして、まったく問題ないことを確かめました!
前作が未読だから分からない、ということはありません!
むしろ、現代っ子の紫月がヒロインの今作は、私にとって、とっつきやすく、この作品から読んで正解だったのではないかと思っております。
あまりにも面白かったので、最新話まで読んだあと、『藤の花恋』を読み始め、そのあとも、まだまだ、この世界に浸りたくて『九尾の花嫁』を読破しました。
面白いです。実に面白いです。寝不足になりましたが、後悔はありません。
「どっぷりハマれる」と、太鼓判を押せるシリーズです!
ちょっとこれは、他では見られない作品ですね…!
丹念に練り上げられた世界観。
頭の中で明確に像を結ばせる、鍛え上げられた描写力。
ものすごい精度を持って心底美しい世界が目の前に広がるんですが、それはどこか儚く、リアルなのに夢の中のようなんです。
物語の舞台は、人間どもの薄汚い現世ではなく、あやかしたちの世界。
常世、幽世、桃源郷…もしそういったものがあるとしたらこんな場所なのではないかと想像するような、儚くも美しい世界を、作者様の繊細にして正確無比な文体が、完ッ璧に作り上げています!
黄昏刻の光に染まり、春の風が吹いていて、どこからか香の匂いが漂う深い山。
人間の身には立ち入りを許されない、あやかしたちの秘められた国を覗き見しているようで、読んでいると、見つかってしまいそうな恐ろしさ、人間は仲間に入れてもらえないだろうなという切なさ、もっと見せてほしいという好奇心でドキドキします。
阿の国に生きるあやかしたちは、皆さん個性豊か!
まるで人間のように、生き生きと暮らしています。
主人公の超絶イケメン碧霧殿は、次期惣領としての鬱屈を抱えた繊細な青年――というだけではなく、意外とやり手で世慣れているところ、グイグイ行けるけど結局は好きな女の子には負けちゃうところがカワイイです。
もう一人の主人公の紫月ちゃんは、抑圧されてきた生い立ちを物ともしない真っ直ぐさ!
気が強くて跳ねっ返りだから向こう見ずなのかと思いきや、想像以上に思慮深く、愛情深いヒロインに、碧霧殿が惚れる前に惚れてしまいました。
そろってみんな気高くて、誰も彼も愛すべき鬼たち――なのですが、端々に「人間ではない」ということを悟らせるポイントが描写されていて、ゾクッとさせてくれます。
少しずつ明らかになっていく謎、じれじれと近づいていくお若い二人、ため息が出るほどに美しい幽世の世界。
名所ばかりのこちら、ぜひ追ってみてください!!!