参.二人目

「次は私の番ね。私のはとっても簡単。そうね……私は二人の子供がいるの。小学四年生と二年生の女の子。二人ともよくお友達を家に呼ぶの。そして、三時に出すものを、いつも私が手作りしてるのよ」

 そう言うと、紫のお面の人は話を終えたのだ。答えを求めるように両手をこちらに向けてきた。

「……えっと、三時に出すもの……おやつ⁇」

 俺がそう言うと、紫のお面の人は首を振った。

「んーっ惜しい。お題には『し』のつく言葉でしょ⁇」

「あぁっ、じゃあ……お菓子」

 俺がそう言うと、紫のお面の人は手を叩いて笑った。

「せいかーい!!」

『紫のお面の方はお題を正解されました。褒美ほうびを授けます』

 簡単に終わってしまったせいで拍子抜けしていると、またも大きなブザー音と共に、機械音が鳴り響く。これだと、正解しようが失敗しようが毎回うるさいじゃないか。俺は音が止むまで耳を塞いだ。


「ったく、うっせーな」

 静まり返ると、黄のお面の人がまたも文句を言っていた。まだ文句を言おうとしていたが、暗闇からうさぎの被り物をしたスーツ姿の人が突然現れた。手には小さめのお皿にクローシュが被されていた。

「正解した紫のお面の方の希望された褒美となります」

 そう機械音が告げると、兎の被り物をした人はクローシュを外してそのまま暗闇に消えていった。お皿の上には、人数分のクッキーがあった。

「……これは⁇」

 俺がそう言うと、紫のお面の人はクスクスと笑って言った。

「うふふ。私ね、ここに来たら手作りクッキーを食べさせたかったの」

 そう言うと、紫のお面の人はクッキーをまじまじと見つめていた。褒美……参加するときにそのような記載はあっただろうか。

「じゃあこれはてめぇの手作りか⁇」

「残念ながら、持ち込みはできなかったの。だけど、精巧せいこうに作ってくれたみたい」

 紫のお面の人は、黄のお面の人にそう答えるとお皿を渡した。

「一人一枚ずつ、受け取って。これは私からのプレゼントよ」

 黄のお面の人は一枚取り、俺に皿を渡してきた。俺も同じく一枚取って、黒のお面の人に渡した。だが、黒のお面の人は取らないで回そうとしたのだ。

「ちゃんと取りなさい!!!!」

 紫のお面の人が突然大きな声で怒ったのだ。黒のお面の人は驚いて急いで一枚取った。

「うふっ。折角せっかくのご褒美なのに、受け取ってくれないなんて悲しいわ」

 黒のお面の人は青のお面の人の前にお皿を置いたが、青のお面の人は相変わらずうめき声をあげるだけだった。

「あなたは受け取れないものね。除外してあげるわ」

 そう言うと、紫のお面の人はお皿を手に取り、先ほどと同じようにこちらに両手を向けてきた。

「さぁ、召し上がれ」

 お面のせいで表情は見えないが、きっと満面の笑みなのだろう。俺は黄のお面の人が食べたのを見てから食べた。なんというか、草のような微妙な味がした。はっきり言って美味しくない。最後に黒のお面の人がゆっくりと食べた。


「はい、ごちそうさまでした。美味しかったかしら⁇」

 紫のお面の人はにこにこと笑いながら、こちらに質問を投げかけてきた。

「……まぁ」

 俺以外は誰も話すことは無かった。きっと同じ気持ちだろう。

「ふふふっ。これね、毒なの」

 そう言うと、紫のお面の人は大きな声で笑い始めた。

「これをね、食べるとすぐに痙攣けいれんして死んじゃうのよー!!」

 俺や黒のお面の人は急いで吐き出そうと手を口の中に入れて嘔吐おうとしようとするが、上手く吐き出せない。急がないと死んでしまう。

「あはははははっ……あら⁇あなたは諦めたのかしら⁇」

 紫のお面の人はそう言うと、黄のお面の人を見た。

「いや、すぐに痙攣するならしてないから問題ねぇよ」

 その言葉にピタリと動きを止めた。そう言えば、全員が食べ終わるまで待っていたのだから、誰かしら先に痙攣し始めているはずだ。

「そうです。あなた達が食べたのは解毒剤入りのクッキーです」

 機械音が鳴り響いた。

「なっ……ちゃんと作ってくれるって」

「皆様にはしのげぇむを楽しんでもらうため、クッキーに解毒剤を入れて、皿に毒を塗りました。ですので、ものとしては問題ありません」

 紫のお面の人が、話が違うと文句を言っていた。だが、何かに感づいたのか自分の手に視線を落とした。

「食べると即効性ですが、手からだと少し遅延するようです」

 機械音がそう言った途端、紫のお面の人は突然、痙攣し始めたのだ。クッキーを手に取ろうとするも、震えた手で弾いてしまい、お皿ともども暗闇の中に転がっていってしまった。

「がぁぁぁぁっあああああああああぁぁぁぁぁぁっ」

 徐々に皮膚が赤く腫れあがり、さらに痙攣が激しくなっていった。暴れ狂うように、床を転がっていた。


 数分経つと、紫のお面の人は動かなくなった。元々ふくよかに見えたのだが、今はその何倍もれ上がっていたのだ。

 異様な光景に、誰も声を発することはなかった。突如とつじょとして防護服を着た人が現れ、紫のお面の人を引きって暗闇に消えていった。

「次は、黄のお面の方」

 何事もなかったように、ゲームは続いていくのだった。

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しのげぇむ 紗音。 @Shaon_Saboh

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