弐.一人目

「最初は、青いお面をした方から」

 機械音が鳴り響いた。どうやら青いお面をした人からゲームを始めるらしい。だいぶ目が慣れてきたのだが、円卓以外は真っ暗で、部屋の大きさがどのくらいの規模なのかわからない。

 辺りを見渡して見ても何も見えないのだ。円卓の周りに蠟燭ろうそくがある。どうやらキャンドルスタンドのようだ。各々の背後に蠟燭があるので、俺の後ろにもあるのだろう。

 何かの儀式のようで、不気味に見える。

 俺は円卓に座っている他の参加者を観察し始めた。俺から見て、右に黄、紫、青、黒のお面の人が座っている。

 黄のお面の人は金髪のショートヘアにアロハシャツのような服装だ。顔が見えていないから絶対とは言えないが、チンピラのような格好かっこうをしている。だが、こんな状況なのにさわがないところを見ると、もしかしたら見た目だけのヤツかもしれない。

 紫のお面の人は多分黒い髪なのだろう。景色と一体化するに近いほど真っ黒い髪をしていて、少しふっくらとした感じだ。服装は……エプロンだろうか。見た感じは主婦のように見える。

 青のお面の人は長い茶髪に制服……だろうか。どうやら女子高生のようだ。指名されたとわかったのか辺りを見渡しながら、自分のお面を触っている。

 黒のお面の人は黒い髪が首辺りまであり、青のお面の人の三倍くらい横幅が大きい。先ほどからうつむきながら、ずっと小刻こきざみに震えているのだ。

「あっ、私からだよね⁇」

 突然、女性の声が聞こえた。俺と他のお面を被った人は一斉に、青色のお面の人に視線を送る。

「あーっ、なんかよくわかんないけど……とりあえずお題を当ててもらえばOKってことだよね⁇」

 そう言うと、青いお面の人は笑い始める。話し方からして、幼い感じがする。こんな状況でも楽しんでいるようだ。

「さっさとやってくれや」

 黄のお面の人がヤジを飛ばしてきた。やはり怖い人なのだろう。

「ゆっくりでいいから、わかりやすくお願いね」

 紫のお面の人が青のお面の人に対して、優しく声をかけた。青のお面の人はうなずいて、深呼吸をした。

「あははははははははははははははははははははははははっ」

 突然、青のお面の人は笑い始めたのだ。そして、すぐに笑うのを止めた。

「……はっ⁇」

 黄のお面の人が冷たく言い放った。俺も言いそうになったが、ぐっとこらえた。

「……あれぇ⁇ダメなのー⁇」

 青のお面の人は首をかしげている。可愛らしい仕草で、これに惚れる男はいるだろうと思った。

「さっき説明で、お題について例え話をするって言ってたでしょ⁇これだと違うわよ」

 紫のお面の人がため息をつきながら、青のお面の人にさとした。そう、ルール説明があったと言うのに、青のお面の人は理解していなかったのだ。

「えーっ⁇じゃあもういっ」

『違反者が現れました。ペナルティを与えます』

 大きなブザー音と共に、機械音が鳴り響いた。ブザー音もうるさいが、それを超える大きさで機械音が鳴り響いたため、全員耳をふさいだ。

「うっうっるっせーなぁ!!!!」

 ブザー音が止まり、静かになった途端、黄のお面の人が怒鳴り声を上げて円卓を蹴飛けとばした。ガンッと音はするものの、円卓はビクともしなかった。

「ペナルティ……⁇」

 青のお面の人が不思議そうに言った時だった。青のお面の人の後ろに犬の被り物をしたスーツ姿の人が現れたのだ。青のお面の人以外は驚いて、犬の被り物をした人を凝視ぎょうしした。

「えっ……⁇何⁇」

 青のお面の人は不思議そうに頭を傾げる。

「うっ……後ろ」

 紫のお面の人が指を差すと、青のお面の人はゆっくりと振り返った。その瞬間、青のお面の人の首を掴み、そのまま持ち上げたのだ。

「うぐっ!?」

 青のお面の人は首を絞められて、声にならないうめき声をあげた。青のお面の人はじたばたと暴れているが犬の被り物をした人は、そのまま暗闇の中へと消えていったのだ。

「……なにが起こるの⁇」

 紫のお面の人がそうつぶやいた瞬間だった。バキッと何かが折れた音がした。

「ああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!」

 音がした瞬間、誰かの悲鳴が聞こえたのだ。その後もゴキッと言うにぶい音が鳴り響き、その度に悲鳴が聞こえてきたのだ。円卓に残された俺達は、誰一人声を上げることは無かった。


 どのくらい経ったのだろうか、先ほどの犬の被り物をした人が戻ってきたのだ。青のお面の人を腕に抱えて。そして、椅子に乱暴に置いて居なくなったのだ。

「……大丈夫⁇」

 紫のお面の人が声をかけるが、青のお面の人は下を向いたままうめき声を上げるだけだった。

「ペナルティは完了しました。青のお面の人は別のお題に変えて、最後に順番を回します」

 何が起きたのかわからないが、青のお面の人に何かをしたのだろう。終わったら、大丈夫だったかと声をかけてみようかと思う。そして、何があったのか教えてもらえるなら、聞いてみたいものだ。

「今回、青のお面の人のお題は『しょうし』、正解した場合でも無効となります」

 機械音が鳴り響いた時、黒のお面の人がビクッと反応していた。相変わらず小刻みしたまま俯いている。

 青のお面の人は、『笑止』と言わせたかったのだろう。だから、突然笑い始めて、笑うのをやめたのだ。確かに漢字で言えばわかりやすいが、突然笑い始めたら気がくるったと思ってしまう。もし、この方法が問題なかったとしても、すぐに答えが分かりそうにない。

「次は、紫のお面の方」

 再び、機械音が鳴り響いた。ゲームはまだ続くのだ。

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