4 気を付けて先輩!そいつはきっと地雷女子。
その日、俺は自分から後輩を呼び出した。
「おや先輩、どうしたんですか? 休日に可愛い女子を呼び出すなんて珍しい」
「うん、実はお前に相談したいことがあってだね」
いい感じの喫茶店で待ち合わせ、テラス席で向かい合っているこの状況。我ながら、なんというか……まさかこの後輩とこんなシチュエーションを迎える日がこようとは。
「相談……? 耳慣れない言葉ですね……」
「あぁ、お前、人から相談とかされなさそうだしな。これがお前の人生における最初で最後の相談になると思うから心して聞いてくれ」
「何やら物騒な感じですね……。いいでしょう、先輩がどんな特殊性癖をしていても、受け入れます」
「あながち間違ってもいないから、突っ込めないのが遺憾だが……実はな――」
「お?」
「最近、行く先々で出くわす女の子がいるんだ――」
毎日のように遭遇するし、そのたびに小規模なトラブルが起こるしで散々なのだが、毎日のように会いすぎてむしろ、会わない日はそいつに何かあったんじゃないかと心配になる……。
「ちょっと中毒気味な自分がいる……」
「それ絶対ヤバいですよ。先輩はもちろん、その子もヤバいです。具体的に何がヤバいかというと、暴力彼氏と別れられない女みたいなヤバみです。毒されてます」
「そこで相談なんだが……これ、運命だと思う? 二度あることは三度ある的な」
「いや、絶対違いますよそれ。そうやって意識させるのが狙いなんですよ。ストーカーされてますよ先輩! スマホから位置情報とか探られてますって。最近、ライン交換するとか言われて知らない人にスマホ貸しませんでした?」
「んー……」
「覚えがあるという顔ですね? いいですか先輩、恋はバトル、戦争なんです。好きな相手の心を射止めるためなら女はなんでもするんです。武器も工作員もなんでもござれです。気を付けないと毒殺されます」
「ほう、ということは後輩さん的にはあれか、ストーカーするってことは、やっぱり相手の子も俺のことが好きだと? だとしたら、そうだなぁ……これ以上、道を踏み外さないように、俺がどうにかしないといけないか」
「命を狙ってるのかもしれません」
「お、おぉう……」
そんな可能性もあるのか。考えもしなかった。
「ところで先輩、先輩は以前、ストーカーするなんてありえなーい、どんびきー、みたいなこと言ってませんでした? その子はオーケイなんですか」
「うん、可愛いから許す」
「はあ?」
めちゃくちゃ不服そうな顔をする後輩である。
「いや、何言ってんですか、先輩?」
「付き合ってもいいかなー、と思ってる。そうすれば、ほら、もうストーカーもやめるんじゃない?」
「……いいですか、先輩。顔が可愛い子がわざわざストーカーなんてします? 可愛い子はそんなことしませんよ。自分からぐいぐい行きますよ」
「内気なのかもよ? というか、ある意味ではぐいぐい来てる。ストーカーとして」
「いや、絶対メンタルがヤバいですよその子。地雷系って知ってます? 見た目は可愛い女の子だけど、中身がヤバいって感じの女子です。安心して近付いたら、ドカン……! そうやって何人もの男を手にかけてるんですよ」
「地雷だったら、一度踏んで爆破して終わりじゃない? 何人もはいけんだろ」
「言葉の綾ってやつですよ。爆殺して次にいってるんです」
「それはもう地雷仕掛ける系女子なんじゃ?」
その後もこの後輩、他人事だと思って好き放題言ってくれてるが、
「そんなに言うなら、今度ちょっと会ってみてくれる?」
俺の一言で凍り付く。
「え? ……ええ! いいですよ! なんなら私が先輩の彼女のフリしてガツンと言ってやりましょうか? いいですよいいですよ、ここは頼りになる後輩が一肌脱いであげましょう――」
「じゃ、今から電話するわ」
「はいぃ……!?」
「テレビ電話? ってやつでいい? 顔見てガツンと言ってくれよ」
「ちょっ、ちょちょちょ……、え? 連絡先とか交換してる仲なんですか? それはそうですね。というか待って、心の準備が、て、もういきなりのしゅらばばばばば」
「よし」
テレビ電話とかはよく分からないので、とりあえずカメラ機能を使うことにした。
スマホを差し出す。身構える後輩。
「ほら、ガツンと」
「――――」
俺のスマホを見つめたまま、固まる後輩である。
画面は今、いわゆる自撮りモードになっている。
「あのぅ……先輩?」
「ん、どした?」
「おっちょこちょいも大概にしないと、私、ぶちギレますよ」
「なんだよ顔真っ赤にして。アオリ耐性低すぎん? ところで俺、その子と付き合ってもいいかなと思ってるんだけど、どうだろう?」
「~~~!」
全てを察した後輩の顔は笑えるくらい真っ赤に染まっていて。
今にも爆発しそうだった。
一撃必殺!地雷ちゃん! 人生 @hitoiki
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