第2話

「それで私が来るまでの間、小泉さん達は遊んでいたと」

「「ご、ごめんなさい……」」


しょんぼりする花音と澪ちゃん。

俺も謝ります、後でこいつにはキツく叱っておきますので……。


「ちょ、れー君だってノリノリだったよね!? 裏切るなんて酷くない?」

「か、花音さん……!」


相手は物凄い剣幕でこちらを睨んでいるのに対し、花音は平常運転。

澪ちゃんはびくびくしながら互いの様子を見ている。

この状況であれば、澪ちゃんの態度が正しい。

それなのに花音ときたら、これだ。


「お二人は十分、反省しているようですし問題ありません。ですが、貴方も同罪なのを自覚してもらわないと困ります」


はい、本当にごめんなさい。

最初は嫌だったんですけど、後から楽しくなっちゃって……。

すると彼女はわざとらしく大きなため息をついてから、とんでもないことを言い始めた。


「結局、楽しんでるじゃないですか。剣帝もただの一般人なのですね」


そりゃあ、俺だって傍から見れば一般人だからな。

剣帝って呼ばれている時は、バスターとして活動している時だけだ。

でも待ってくれ、もう一度今の言葉を言ってもらえるか?


「ただの一般人のところですか?」


それだ。現在の俺は猫の姿。

何故、俺の考えていることがわかるんだ?

花音は恐ろしいほどの精度で、ほぼ確実に俺の考えていることを読み取って返事をするんだ。

花音ならまだわかる。だが、お前は……。

考えてみればツッコミたいところがありすぎる。

こちらを見て、考えていることまで正確に読み取れるのは只者じゃない。

疑問に思わない方がおかしいだろ?


「まあ、その辺の話は最後でもいいですか? まだ名乗っていないのに色々と自分語りするのもアレですし」


確かに言われてみればその通りだな。

そっちから名乗らせるのは申し訳ないから、こちらから名乗るとしよう。

俺は小泉玲紀、隣の金髪ツインテールが相棒の小泉花音、そんでさらにその隣の子が卯月澪ちゃん。

花音は発電能力エレクトロキネシス、澪ちゃんは精神観測サイコメトリーで―――


「貴方の異能は説明しなくてもわかっていますので、大丈夫です。『彼方より手操る千刃ソード・オブ・ファンタズム』、でしたっけ。近接武器なら何でも召喚できますし、便利ですよね」


……なんか説明しようとしたのに、その内容を全部喋られるとモヤモヤするなぁ。

手間が省けるから楽ではあるけれど。


「白坂さんが教えてくれましたから。これから一緒にチームを組むにあたって、お互いの異能を把握しておかないとやっていけないですし―――私の名前は皆瀬結花みなせゆいかと申します。異能は凍結能力クリオキネシスです」


自己紹介をする彼女の姿を何気なく見てみる。

首元には黒革のチョーカーにあしらわれている反応晶が確認できる。

花音と同じ金髪、しかしツインテールではなくロングヘア。

まだ8月というのにブレザーの制服を着ている。

それはさておき、瞳は透き通るような蒼い瞳でスタイルもなかなか良い。

先ほどから発している言葉から清楚な感じが滲み出ている。

そして特定の部分については、花音に負けていないとも言える。

ていうか、これって相手にバレてないよな? 大丈夫だよな?



「……私がどうして小泉さんたちと組むことになったかの話でしたよね」


そんな俺の心配を他所に、皆瀬さんは話を進めようと俺に説明を促した。


数日前、琥珀さんからN市の特異犯罪が以前より増していて、どうにか出来ないか相談を受けたんだ。

《剣帝》がまだ生きていると判明しても、特異犯罪は減るどころかむしろ増加の一途をたどっている。

最近、立て続けに起きた事件でハウンドドッグの隊員数も減り、その度に補充は受けているものの、まだ満足と言える状況じゃない。

他のストレイドッグや琥珀さんが率いるハウンドドッグが出動しているが正直のところ手一杯らしい。

住良木と千種姉を呼んでもいいが、あいつらはそもそも県外で活動しているからな。

期間限定で、他の県外から1人のバスターを呼ぼうというわけになった。


「―――――って、れー君が」と花音。

「どうして住良木さん達はダメで、皆瀬さんは問題ないのでしょうか」と、澪ちゃん。


良い質問だな。

琥珀さん曰く、住良木と千種姉が活動しているT都M区は特異犯罪の発生数や検挙率も他の地域と比べると多いらしく、余程のことがない限りこちらに派遣できないとのこと。

まあ主力を他所へ派遣している最中に、事件が発生したら色々と厳しいだろうしな。

だから関東圏内で一番、特異犯罪の発生率が低いS県S市から1人よこすことになったんだと。


「はい、小泉さんが説明した内容で合っています。私が現在活動しているS県S市は関東圏内では珍しく特異犯罪の発生率が低いんです。後は私が特異犯罪者に対する検挙率の高さなど……それに目をつけた白坂さんが私に声をかけたというわけなんです」

「もしかして氷結の騎士フリージングナイトと呼ばれている、あの皆瀬結花みなせゆいかさん……?」


澪ちゃんが皆瀬さんにそう尋ねる。


「巷ではそう呼ばれているらしいですね」


しれっと答える皆瀬さん。

どっかで聞いたことあると思ったら、S県で検挙率ナンバーワンの女子高生バスターじゃねえか!

道理で見たことある姿してるなと思ったら、そりゃそうだわ。


「私の一夜の女王ワンナイトクイーンよりはマシだと思うんだけど」


ボソッと呟く、花音。

氷結の騎士は良いけど、一夜の女王はなぁ……。

澪ちゃんもこれから活動していく中で俺と花音、皆瀬さんのように異名がつけられるのだろうか。

剣帝、女王、騎士ときたら何だろうか。精神観測サイコメトリーだから千里眼とか?

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