第4話
時刻はちょうど昼の12時になったばかり。
結花からファミレスに行きたいとの希望があったので、俺たちは現在、ファミレスにいる。
先ほどの発言から、何処かのお嬢様なのでは? なんて思っていたけどほぼ100%そうなのだろう。
だって家で飯作る人が家政婦なんて絶対それしか有り得ない。
「結花ちゃん、好きなだけ頼んでいいからねー」
「は、はい! こんなに色々な種類があるなんて、やっぱり日本のファミレスって凄いんですね。全部頼みたいところではありますが……ぐぬぬ」
結花はアレでもないコレでもないと、唸りながら選んでいた。
俺も初めてファミレスに来た時は結花と同じように悩んだぞ。
どれも美味そうに見えるから、余計迷ってしまうんだよな。
最初は定番メニューから頼んで、次からは限定メニューとかを頼めばいいんじゃないか。
「結花さん、結構悩んでますよね。玲紀さんはなんて言ってますか?」と澪ちゃん。
「最初は結花ちゃんみたいにめちゃくちゃ悩んだらしいよ。まずは定番メニューから頼んだ方がいいんじゃない? だってー」と花音。
「だけど、この限定チョコレートパフェが……」と結花。
つーか、今日は花音の奢りだし、両方頼めばいいだろうよ。
「で、でも」
良いんだよ。花音にとって結花は2人目の後輩なんだから、そこは素直に甘えればいいさ。
「……なるほど、確かに玲紀の言う通りね。花音先輩、限定チョコレートパフェと山盛りジャンバラヤと、山盛りポテト、欲張りステーキセットを頼んでもいいですか!?」
お、おう。
結花の食欲半端ねえな。どんだけ食うつもりなんだろうか。
あの細い身体にスイーツやらなんやらと入るのは驚きでしかない。
そうそう、澪ちゃんも好きなものを頼んで良いんだぜ。
あと今なら回らない寿司屋とかも連れて行ってくれるかもしれないぞ。
「私は花音さんたちと一緒なら何処でも構いませんよ。皆さんと食べるご飯が一番美味しいですからね―――あ、私はビーフシチューオムライスでお願いします」
「澪ちゃんはなんて良い子なんだろう、花音お姉さん感動しちゃう! じゃあチーズインハンバーグセットにしよっと」
およよ、と泣いてるフリをしながらメニューを決める花音。
器用だな、オイ。
「ていうかさー、れー君は私以外の子にはとっても優しいよねー。ずるくない?」
別にずるくねえわ。可愛い後輩と新しい仲間なんだから当然だろ。
天使な澪ちゃん、清楚でクールビューティーの結花。そしてド変態花音。
この中で誰を選ぶかと聞かれたら、俺は迷わず澪ちゃんと結花を選ぶね。
昔の花音だったらあり得たかもしれないが。
「ふーん、いいよー。れー君がそのつもりなら私だって考えがあるもんねー」
その考えとやらを聞かせてもらおうか。
さぞかし、とても素晴らしい考えなんだろうな。
「第2回れー君祭りを開催しようかと思うのです! ふんす!」
うっそだろお前、アレをまたやるのかよ!?
頼むからそれだけは勘弁してくれ。
俺の尊厳という尊厳が失われてもいいのか? ダメだろ?
「「れー君祭り?」」
花音の言葉に澪ちゃんと結花が不思議そうに首をかしげる。
2人は気にしなくていい。世の中には知らなくてもいいこともある。
「れー君祭りというのはれー君成分を補給するイベントなんだよ。疲労回復の効果もあるの」
「おそらくだけど、花音先輩が言うことはろくでもない気がするのよね」
「結花さんの言う通りだと思います。時折、花音さんの発言を理解できないことがあるんです。私、おかしいんでしょうか?」
澪ちゃんは至って正常だし、結花の言っていることも当たってるから安心してくれ。
「みんなして酷いなぁー。私はいたって真面目だし、誰から見ても美少女な上に清楚なんだよ?」
頬をぷくーっと膨らませて花音は抗議してきた。
真面目な奴は自分から真面目だって言わない。こいつが美少女だと言われているのはガチガチの営業スマイルの時だけだ。
家ではグーたらしてるくせに外では真面目なんだよなぁ、こいつ。
「玲紀と花音先輩って仲良いのね……」
「普段はあんな感じですけど、現場だと息ピッタリですからね」
「もはや夫婦よね、それ」
2人は何か俺達のことを言っているが、全くわからない。
少なくとも悪いことではないのは確かだ。
◆
あれからしばらくして全員分の料理が運ばれたのだが―――
「凄い食べっぷりだね、結花ちゃん。本当に凄い……」
花音と澪ちゃんは自分の料理を食べずに、結花が怒涛の勢いで料理を食べている姿を見ていた。
あれだけあった料理たちが一気に無くなっていくのにはただ驚くしかない。
2人とも早く食べないと飯が冷めるぞ。
「そういえばさっさと食べなきゃ、ご飯が冷めちゃう!」
「……あっ、そうですね。私たちも食べちゃいましょうか」
2人が食べ始めるころには結花は山盛りジャンバラヤを平らげていた。
ついさっき料理が来たばっかりだよな? おかしくねえか?
早く食べるのは結花自身、気にしてはいないだろうけどさ。
ただ彼女の身体への健康を考えると、もう少しゆっくり食べてもいいんじゃないかとは思う。
それはさておき。結花って花音と比べて清楚だし、ちゃんと礼儀正しい。
花音も昔はああだったのに、何処でこうなったのやら。
そうこうしているうちに結花が最後のチョコレートパフェに手をつけようとしたが、何故かやめてしまった。
「わざわざご飯を奢っていただいてすみません。こんな私なんかのために」
結花は申し訳なさそうな顔をしていた。
花音は一瞬、ぽかんとしていたがすぐにその発言を否定する。
「ううん、全然そんなことないよ! 今日は歓迎会も兼ねているんだよ。本当は琥珀さんも呼んで、もっと大きな場所でやりたかったけどねー」
「白坂さん、連続特異災害事件の時も苦労していましたけど……。今回もまた大変だとおっしゃっていましたからね」
「だねー。だけど、琥珀さんが大変な目に遭うのもこれでおしまい! 何故なら『れー君と愉快な仲間たち』に新しい仲間が加わったからね!」
花音と澪ちゃんは結花へ視線を向ける。
「わ、私ですか?」
「もちろん! ほらほらもっと肩の力を抜いてもいいんだよー。今日から同じチームなんだし」
「ええと……」
「多分ですが、結花さんって一人称は私ではなく、あたしですよね」
「どうしてそれを―――ああ、そうか……澪は
結花は突然、自分の一人称の呼び方をピタリと当てられ、目をぱちぱちとさせていた。
だが澪ちゃんの異能が何だったのかを思い出して納得する。
「勝手に能力使ってしまってすみません」
「別にあたしは気にしてないから問題ないわ。そうだ、ちゃん付けしなくても大丈夫?」
「私はどちらでも構いませんので」
そういえば澪ちゃん、結花の手をさりげなく握っていたな。結花の一人称が分かったのも納得できる。
本来は公の場でむやみに異能を使用してはいけないのだが……。
まあ今回ばかりは良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。