第3話

「小泉さんたちに予め言っておかなければならないことがありまして」

「ええと、何でしょうか」


皆瀬の発言で背筋をピンと伸ばす花音。

つられて俺もなぜか背筋を伸ばしてしまった。


「先ほども言いましたが、私たちはこれからチームとして活動しますよね。そこで提案なのですがお互いを名前で呼びませんか? 花音さんと玲紀さんは同じ小泉なので……呼びにくくて」

「そうですよね、なんかすみません」

「後、花音さんについては私と話す際は敬語を使わないでください。年上ですし、バスターとしても先輩ですから」

「あ、はい」


あの花音が年下のペースに流されてるぞ、ぷぷぷ……!


「れー君?」


花音の冷たい眼差しを感じた俺は即座に媚びを売ることにした。

流石、大人な花音さん! 花音さんの作る肉じゃがは最高だもんなぁ! また食べたいなぁ!


「えへへ、今度作ってあげるね!」

「チョロすぎ……」


結花、それ聞こえてるからな。


「卯月さんも遠慮なく、名前で読んでもらって構わないので……澪、これからよろしく頼むわね」


と、笑顔で澪ちゃんに握手を求める結花であった。


「は、はい! まだ未熟な部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします!」

「誰だって最初は未熟者よ。私もそうだったもの。困ったときは相談してね」

「結花さん……」


トロンとした目で結花を見つめる澪ちゃん。

さっきから思うんだが、花音だけでなく澪ちゃんまで掌握するとかこの人凄くね? 何者だよ。


「どこにでもいる普通の女子高生よ」


さも当たり前かのように言うが、全国の女子高生が彼女と同じであったら恐ろしいと思うぞ。

であれば今頃、特異犯罪は全て解決している上に琥珀さんの仕事量も減るし、俺達も楽になれる。


さっきの話に戻して悪いが花音と同じぐらい、俺の思考を読み取れるのは何故なんだ?

俺の問いに対して結花は一瞬、表情が固まったがすぐにいつも通りの凛々しい顔に戻った。


「またその質問をするのね。乙女には秘密の1つや2つあるものでしょう? 玲紀にだって知られたくない事があると思うのだけど。そうね、例えば玲紀の過去とか」


脳裏に過去の出来事がよぎる。結花、お前はどこまで知っている……?

確かにバスターとなったキッカケはある。

ガキの頃に起きた、ある出来事によって俺はバスターになった。

だが、これを知る者は花音とMDC統括理事長の2人しかいないのだ。

まさか2人以外に知る者がいたなんて思いもしなかったが。

別に俺の過去を知られていても構わない、事実だから。

けど、結花の今後の行動によっては考えないといけない。

例えば―――


「そんな怖い顔しないで。冗談よ、冗談」

「えっ、れー君の過去って何だろう? まだれー君が小さかった頃、夜眠れなくて泣きついてきたとか? それともおねしょしちゃったこととか?」


一触即発な雰囲気を知ってか知らずか、花音は吞気に俺の過去を暴露しやがった。

頼むからその口を今すぐ閉じてくれ!

何でも食いたいもの欲しいものを奢ってやるから!


「本当!? 色々あるからねー、迷っちゃうなー。あ、そうだ!」


どうしたよ。もしかしてお腹でもすいたのか?

食いしん坊の花音のことだろうから―――


「違うよ、結花ちゃんがどうしてバスターになったのかを聞くの忘れてた! 結花ちゃんが凍結能力クリオキネシスなのは分かったの。バスターになったのはもしかして友達のため?」


確かに。異能や俺の思考を読み取れる事は分かったが、肝心のバスターを目指すきっかけをまだ教えてもらっていなかった。


「私がバスターを目指すきっかけとなったのは、親友が特異犯罪に巻き込まれたからですが……」

「そっかー。私もね、バスターを目指そうって思ったのはね。れー君がとある事件を起こして危険性帯有特異体監督署に収監されちゃったからなの」

「特異体が事件を起こしたら収監される場所でしたよね」

「そうそう。当時は何もできなくてめちゃくちゃ悔しかったから、何としてもれー君に会いたい一心で色々と勉強したんだよー。そうしたらさ、数年後にれー君がハウンドドッグからストレイドッグへ転身して、独立しているのを知ったんだ」

「え、そうなんですか?」


驚く結花に花音は相槌を打ちながら、俺を見る。

こいつの言う通りだよ。俺は今フリーランスで活動している。

そして花音も同じフリーランス―――ストレイドッグとして活動してるってわけだ。


「花音先輩、普通ならハウンドドッグの育成機関などを経て、バスターになるはずですが……」

「あはは……。普通なら、ね」


気まずそうに再びこちらを見る花音。

わかったよ、お前の代わりに俺が説明しておくから。

こいつはな、皆が経験するであろう段階を飛ばしていきなり俺に弟子にしてくれって頼み込んできたんだよ。


「……は?」


面を食らったかのような顔をしているけど、マジだぞ。

幸い、花音も特異体で異能持ちだから教えられることは訓練と座学などで全部教えたさ。

俺みたいにハウンドドッグからストレイドッグじゃなく、いきなりストレイドッグで活動しているんだからな。

一応、結果はちゃんと出しているし、俺の相棒として今は第一線で活躍出来ているから凄いだろ?


「れー君がそんなことを思っていたなんて……へっへっへ。お姉ちゃん泣いちゃいそうだよ……」


人前で言うべき内容じゃないな、顔真っ赤になりそうだわ。

あー、なんだかお腹がすいてきたな? 飯食わないと死にそうだわ、どうしよう。


「照れ隠ししているれー君も可愛い! よーし、ここはお姉ちゃんがみんなにご飯をおごってあげよう!」


大丈夫か? お前、明日死ぬのか?

澪ちゃんはどうすればいいのか分からないっていう顔してるし、結花も口をパクパクしてるじゃねえか。


「ふふん、一夜の女王ワンナイトクイーンの実力を甘く見てもらっちゃ困るね!」


さいですか、お前がそう言うなら別に良いか。

ノリノリで一夜の女王ワンナイトクイーンって言ってるのは良いんだな……。

結花や澪ちゃんは何処で食べたいとか希望はあるか?


「私はどこでも大丈夫です」

「うーん……」


結花、遠慮なく言ってくれ。あいつは機嫌が良いし、今なら叙々苑とか連れて行ってくれるぞ。


「大変言いにくいんですが、ファミレスに行ってもいいでしょうか?」

「叙々苑じゃなくていいの?」

「普段、定期的に家へ来てくれる家政婦さんが料理を作ってくれているので……」

「へぇ、ふーん? じゃ、じゃあファミレスにしようかー」

「ありがとうございます、花音先輩!」


とんでもない発言が出てきたが俺達は全力でスルーすることを決めた。

マジで結花は何者なんだ? 琥珀さんに聞けば教えてもらえるのだろうか?

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