第6話

N市に向かう途中の新幹線内にて。


結花がいなければ今頃、俺たちは琥珀さんにこってりと絞られていただろう。

束の間の休息ではあるが、こうして新幹線で落ち着いて弁当を食べていられるのも結花のおかげだ。

―――ちょっと待ってほしい。なんで弁当という単語が出てくるんだ?

俺は見てのとおり、この姿だから弁当を食べるなんて無理だ。

となると、今この場で食べているヤツなんてアイツしかいない。

隣にいる花音を見ると、幸せそうに大口を開けて食べていた。


「……ほえ?」


何が「ほえ?」だよ。可愛くとぼけても無駄だぞ。


「弁当でもこれは駅弁だよ、牛タン弁当!」


目を輝かせて花音はそう言っているが……いつの間にそれ買ったんだよ。

俺に何も言わずに牛タン弁当なんか食いやがって。


「もしかしてれー君も食べたかった? ごめんね、すぐ食べちゃうから」


すると花音は弁当を持ち、弁当を思いっきりかきこみ始めた。

やっぱり少しでも良いからもらえばよかっただろうか。

それより、これからN市に戻るってのに駅弁食う必要あるのか?


「腹は減っても戦は出来ぬ、ってよく言うじゃん。私たちはこれから戦をするの」


ああ、そうかい。ちなみに戦じゃなくて会議な。

会議前に闘志を燃やすのは良いが、頭を回転させるほうが大切だと思うぞ。

例えば糖分摂取できる、プリンとか、アイスとか……。

そんな俺の提案に花音はポンと手を打ち、こう言った。


「流石、れー君! 確かに頭をフル回転させるには甘いものも必要だよね! じゃあアイス食べようかなー、れー君も食べる?」


会議前にエネルギーを補充するのは大切だしな。

お言葉に甘えて俺もいただくとしよう。

ちなみに何味のアイスを買うのかだけ教えてくれ。


「んー、シンカンセンスゴイカタイアイスかな」


それ絶対、味じゃねえだろ。

どの味にするかを聞いたんだが、俺の聞き間違えか?

ちくしょう、こんな時にスマホが使えていたら……。

悶々としている俺をよそに花音は駅弁を平らげ、販売員に先ほどのアイスを頼んでいた。


「そういえばさ、澪ちゃんと結花ちゃん大丈夫かなぁ」


しばらくして頼んでいたアイスが来ても、花音は珍しくすぐには手を付けなかった。

そして心配そうな顔をしながら、俺に問いかけてきた。

大丈夫って何がだよ。澪ちゃんは人見知りしない子だし、心配するほどでもないかと思うが。


「いや私たちはこのままN市に戻って会議だけどさ、澪ちゃんは結花ちゃんの家にお泊りじゃん?」


あー、そういわれてみればそうだったわ。

さっきも言ったが、澪ちゃんは人見知りしないタイプだし、結花はあの数時間の間で溶け込んでいただろ。

だから花音が心配するほどでもないと思うぞ?


「れー君が言うなら、そんな気がしてきたかも……」


何かあったときは俺とお前で何とか対処すれば良い。

それでも上手くいかなかったら琥珀さんに相談でもすればいいさ。

つか、アイスは大丈夫なのか? 溶けてたりしないよな?


「忘れてた! れー君、ほらアイスだよー、バニラ味だよー。10分くらい経ったから食べられるんじゃないかな」


花音にあーんされて、俺は口を開けた。

……スゴクカタイという割にはそこまで硬くないぞこれ。


「食べられるようになる目安が10分だからね。れー君はにゃんこ姿だし硬いままだったら食べられないよね? 食べられるようになるまで待つなんて、なんと慈悲深いお姉ちゃんなんでしょう」


どこぞのシスターみたいなポーズを取る花音。

はいはい、お前が昔のまま育ってくれたらお似合いだったな。


「さりげなくディスってるよね、れー君」


花音からの追及を無視し、俺は今後のことを考えるのであった。



そして数時間後。

N市内にあるMDC支部の支部長室で俺と花音、そして琥珀さんと一人の男。


虚ろホロウの件は本当にありがとうございました。小泉さん達の活躍のおかげもありまして、残党狩りも順調に進んでおります」と、男が礼を述べた。

この男、実はN市のMDC支部長であり、名を林征士郎はやしせいしろうという。


虚ろ《ホロウ》の時は花音と腹の探り合いをしていて、俺と琥珀さんはとてもじゃないが気が気でなかった。

林氏が折れてくれたおかげであの時は収まったものの、後で琥珀さんが激おこだったのは記憶に新しい。


「いえいえ、こちらこそ。ハウンドドッグ側が条件吞んでくださったおかげで犯人の変異能力者を仕留めることができましたからねー」


花音がそう言った瞬間、林氏の表情がわずかに歪んだ。

まあそうだよな、あれだけ言いくるめられてメンツを潰されたもんな。


「時にはこちら側が折れるのも大切でしょう。今日こそは小泉さん達と世間話をして過ごそうと思いましたが……どうやらそういう訳にはいかないようです。白坂くん、資料を頼むよ」

「承知しました。こちらがお二人にご覧になっていただく資料となります」


琥珀さんが全員にあらかじめA4サイズに印刷された資料を配っていく。

資料を見ると最近発生した事件が事細やかに書かれている。

ハウンドドッグから情報連携される前から、こちらでも情報収集はしていたが正直ここまで多いとは思わなかった。


「最近、事件が多発しているというのは知っていましたけど、まさかここまで多いとは思いもしませんでしたねー」


俺の気持ちを代弁するかのように花音が琥珀さんに向けてそう言った。


集団ネームレスの事件以降、N市内で発生している異能絡みの事件は減少していますが―――それでも微々たるものとなっています」

「そこで貴方たち、れー君と……。失礼、チーム名を教えていただいてもよろしいでしょうか」

「《れー君と愉快な仲間たち》です!」


花音が誇らしげにそう言ったが、その際に林氏が一瞬、吹き出しそうになった。

しかし即座に咳払いをして何とか誤魔化していた。

林氏は意外に笑いのツボが浅いのか? 琥珀さんはポーカーフェイスを装っているがよく見ると太ももをつねっていた。

まあ、俺ですら未だにこのチーム名に慣れずにいる。

もうちょっとこう良い感じの名前があるはずなんだがな。どうにかならんかったのかな……。


「《れー君と愉快な仲間たち》のメンバー数は4名と聞いています。花音さん、玲紀さん。あと残りの2名は今どちらに?」

「卯月澪さんと皆瀬結花さんについてですが、現在S県S市に滞在中で明日にはN市へ戻る予定となっております」


林氏の問いかけに対し、琥珀さんは即答した。


「そうですか。卯月さんと皆瀬さんには明日、N市到着後にMDC支部へ来てもらいましょう」


すると、花音は林氏に対して申し訳なさそうな顔をしていた。


「話を折ったみたいでごめんなさい……」

「いえ、お気になさらず。今回、お呼びしたのは白坂くんが配布した資料にも記載されている通り、SNSで話題になっている人物を調査してもらいたいのです」














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小泉花音は自重しない 二次創作 味噌煮込みうどんが食べたい @Siune407

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