第1話

某月某日、S県S市のとある会議室にて。


俺達3人は現在、活動拠点にしているN市から離れたS県にいる。

何故ここにいるのか?

今日、俺達のチームに新たな仲間が加わる予定だ。

そのために、はるばる遠いN市から此処、S市まで来て顔合わせをするということになっている。

そして今いるのは俺と花音、そして澪ちゃんである。


「今日ってさ、私たちの『れー君とゆかいな仲間たち』に新しい人が来る日だよね?」


そうだな。噂では現役高校生バスターらしいぞ。


「へ? 高校生なの?」


詳しい話を聞こうとしたんだが、琥珀さんの顔がしんどそうだったから聞けなかった。

琥珀さん、会うたび目に隈が出来てる気がするんだよな。大丈夫かなぁ。


「最近、また特異犯罪増えてきてるもんねー。剣帝が復活したと言っても、いきなり減るわけじゃないし」


花音の言う通りだ。

俺は花音の力『雷纏らいてん』を借りて、人間の姿に戻れる。

しかしこれには条件がある。

雷纏らいてんを受けて、人間の姿に戻れてもそれは一時的でしかない。

一定時間が経過すれば再び猫の姿に戻ってしまう。

あの事件からどうにかできないものかと日々模索しているが、未だ結果は出ていないのが現状だ。


「れー君が人間の姿に戻ったら……なんて思ってた時期もあったけど、にゃんこ姿もイイよね!」


そう言いながら、だらしなく涎をダラダラと垂れ流す花音。

みっともないからさっさと口を拭いてくれ。澪ちゃんもいるんだぞ。

今のお前は何処からどう見ても、やべー奴にしか見えないからな。


「澪ちゃんもきっと分かってくれるはずだよ! にゃんこ状態のれー君めちゃくちゃ可愛いし!」


手をわなわなさせながらこっちに近寄るんじゃねえ! 

つーか、ここは家じゃないのは分かってるよな? 流石に勘弁してくれ。


「えー、れー君をもふもふしたいだけなのになー。いつもみたいにヘッドロック決めたりしないからさ、ちょっとだけ! お願い!」


絶対に嫌だ。断る。

大体、お前いっつもお願いとか言いつつ、問答無用で襲ってくるだろ。

普段は家でしかこういう事をしてこないのだが、何故か今日に限ってウザさがいつにも増してやばい。


「ここは澪ちゃんに聞いてみるっていうのはどうかな」


え? 何を?


「れー君をもふもふする件について」


ハハハ、澪ちゃんは天使だからそんなこと認めるはずが―――

すると、今まで俺達の様子を見ていた澪ちゃんがこう言った。


「たまには癒しも必要だと思います。琥珀さんもそうですが、花音さんも最近頑張っていますからね」


と、澪ちゃん。

これはアレだな、うん。逃げるか。

澪ちゃんも花音の味方をしているっつうことは、絶体絶命のピンチというわけか。

今の俺は猫だ。つまりこの状態を活かして上手く逃げ切るしかない。

そう決心した俺はいつもとは違った動きで、俺を捕まえようとした澪ちゃんの手から逃れる。

そしてテーブルの下へ、するりと潜り込むことに成功した。


「あ! 待ってよ!」

「ちょっと玲紀さん!? 家じゃないんですから大人しく捕まってください!」


傍から見れば美少女2人がテーブルの下にいる猫とにらっめっこするという、なんとも滑稽な様子ではあるが、当の本人たちは必死である。


「澪ちゃん!」

「はい!」


2人の掛け声と同時に俺はテーブルの下から脱出し、扉へと向かった。

ガチャリ、と音がして偶然にも扉が開いた。

よし、このまま廊下に逃げれば俺の勝ち―――んぎゃ!?


「貴方たちは一体何をしているのですか?」


逃げ回っている俺を掴んだのは、花音にそっくりな金髪美少女だった。

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