小泉花音は自重しない 二次創作

味噌煮込みうどんが食べたい

プロローグ

日付が変わり、午前1時の土曜日。

ハウンドドッグN市支部の事務官室にて。


机の上の至る所に報告書が散らばっていた。

「泥酔した特異体のサラリーマン同士の喧嘩」

「一般人数名が特異体1名を暴行」

「学校内で特異体の生徒が異能を暴走させ、生徒10名負傷」

これらだけでなく、他にも様々な事件が最近発生している。

1件解決すると2件増える。2件解決すると3件増える。

正直、もうここに書ききれる量ではない。


「はぁ……」


あまりの量の多さにため息が出てしまう。

この時、彼女はとある青年のことを考えていた。

剣帝と呼ばれる彼が人間であったなら―――否、今も人間ではある。

しかし事情があり、別の姿になっているため、以前のような実力を発揮できないでいる。

ある事件により、実は剣帝がまだ生きているということが判明した。

そのおかげもあってか、ここ数か月のN市内の事件発生数は減少している。

……ほんの少しではあるが。


過去の任務中による負傷で事務方に回ったが、彼女はこの仕事を誇りに思っている。

現場にバスターとして出ることはもう出来ないが、それでもやれることはたくさんある。

事務官になった今では現場指揮をしたりもする。

大変ではあるが充実していると感じていた。

だが、それにしてもこの仕事量の多さは異常だ。

最後に家に帰宅したのはいつだっただろうか? もう2週間も帰宅していない気がする。

ハウンドドッグN市支部内には一応、シャワー室やコインランドリー、24時間営業のコンビニや仮眠室もあるので生活することも可能なのだ。

けど、家には帰りたい。


「もう猫の手でも借りたいほどだわ……」


ぼやいてから彼女は思わず笑ってしまった。

既に猫はいるではないか。ある意味では。

誰でも良いからこの状況を打開してくれる人は―――

頭を抱えそうになった瞬間、スマホの着信音が鳴り響く。

音は聞こえるが、何処からだろう。おそらく報告書に埋もれているに違いない。

急いで報告書の山からスマホを見つけると電話に出た。


「はい、白坂です」

『随分と疲れているみたいだね、白坂』

「その声は……南野君?」

『ああ、育成機関で同期だった南野だよ。覚えてくれていて嬉しいな』


のんびりとした口調で話す男はかつて育成機関で同期だった男。

名前は南野洋一みなみのよういち

彼女と共に育成機関でチームを組んでいた一人だ。

大柄で見た目は厳ついが、優しく気配り上手で他チームからの信頼も厚かった。

育成機関を卒業後は彼女――白坂と同じくバスターになり、その後は白坂と同じく事務官になったのは知っている。

たしか今はS県S市で活動しているはずだ。そんな彼が一体何故?


『丁度、猫の手でも借りたいなんて思っているのかと思ってね。最近、仕事は順調かい?』

「貴方って精神観測能力者サイコメトラーなの? まあ、ある意味順調ではあるわね……」

『まさか。僕の異能は身体能力強化エンハンスさ。ところであの剣帝が実は生きていたなんてビックリしたよ』

「そっちにも情報が広まっているのね」

『当然だろ、日本最強と謳われているバスターが復活したんだから』

「……そうだったわね」


あの剣帝の知名度は他県にまで影響していたのか。

改めて彼がもたらす影響力を思い知ることになった。


「それでいきなり電話してくるってことは、何か話したいことがあるんじゃないのかしら」

『ああ、そうだった。N市にこちらのバスターを1名派遣しようと思っているんだ』

「派遣? 一体誰を派遣するのよ」

氷結の騎士フリージングナイトと言ったら分かるかな』

「高校生バスターにしてS県内の検挙数ナンバーワン……」

『おっ、N市でも話題になっているなんて嬉しい限りだよ。そう、そのバスターで合ってる』


氷結の騎士フリージングナイト

去年、現役高校生にしてバスターになった後、めきめきとその頭角を現し、今ではS県内で検挙数ナンバーワンを誇っている。

その異名のとおり、異能は凍結能力クリオキネシスだ。

特殊能力ユニークスキルの『絶対零度アブソリュート・ゼロ』は直接、触れた対象を100%凍死させることが出来る、ある意味恐ろしいものでもある。

しかし、そのバスターが何故N市に派遣されることになるのだろうか?


「ちなみに派遣しようなんて思った理由を聞かせてもらっても?」

『理由なんて単純さ。白坂のいるN市の犯罪率はとても高い。丁度、白坂が困っているみたいだし、派遣しようって思ったんだ』

「……他にも理由はあるでしょう。はっきり言いなさいよ」

『バレたなら仕方がない。今、S県S市の犯罪率は全盛期の剣帝がいたN市よりも犯罪率が一番少ないし、余裕がある。加えてうちの騎士ナイトはまだ高校生で経験が浅い。他県の状況を実際に知ってもらうのにも良い機会だと思う。どうかな?』


確かに南野の言う通りではある。

現在のN市の治安状況は以前に比べて最悪だ。彼の提案を断る理由なんてない。

ここは南野の提案に乗るべきだと白坂の直感は彼女自身に告げていた。


「分かった。その提案に乗るわ、詳しくはメールで送ってもらえると助かるのだけれど」

『そう思ってもう送ってあるよ。今すぐじゃなくても明日……というか今日か。寝て起きたら見ればいいから』

「いいえ、あとで見るわ」

『……そうか。あまり無理はしないように。あと、騎士ナイトが不在でも大丈夫なようにこっちの対策はすでに打ってあるから心配はいらないよ。それじゃあまた機会があったら今度は直接会おう』

「ええ、また会いましょう」


通話を終えると、白坂はホッと息をつく。

神様はまだ白坂とN市を見放していなかったようだ。

S県S市のバスター、氷結の騎士フリージングナイト

それに加えて剣帝、そして剣帝の仲間である一夜の女王ワンナイトクイーンと中学生にしてハイレベルな精神観測能力者サイコメトラー

この4人がいれば、N市の犯罪率もかなり減ることだろう。

白坂は早速、南野から送られてきたメールを見ることにした―――


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