何気ない日常はこんなにも美しい

『見慣れない横文字に目が止まる。
それは浅瀬を泳ぐ熱帯魚のように鮮やかだったが、同時に触れることを躊躇うような未知でもあった。ひらひらと軽やかそうなのに、口に出してみればどう発音して良いのかわからず、首を傾げたところに正解が降ってきた。』

2話目の冒頭です。
本作はここから物語が始まると言っていいと思います。
僕は、一文も見落としたくない思い出この作品を読破しました。
丁寧で美しく、的を射た描写が、何気ない日常をこんなにも色づけるのかと、打ちのめされた思いです。
そんな美しい描写で綴られる物語は、気取らない、飾らない素朴な二人がほんの少し距離を縮めるお話。
読後、素朴な事務服の女の子と、作業着を着た優しそうな男性が歩く後ろ姿が目に浮かぶようでした。
文学好きの方、表現に深みを求める方には、是非おすすめです。