エピローグ
いつ覗いてもモルガーヌの姿に悲愴感は見当たらなかった。達観したのかまだ時間はあると思っているのか、かつてメダルドと呼ばれた癖っ毛で赤味の強いブリュネットの少年には分からなかった。
諦めて家に戻ると途端に老婆に抱きしめられた。
「坊や、ばあちゃんを心配させないでおくれ、もうあたしにゃあんたしかいないんだよ」
ちゃんと告げてから外出したのだが、耳に翼猫のイヤーカフを付けた少年は素直に謝った。
「ごめんよ、おばあちゃん」
川中島の隠れ家を垂れ込んだのはメダルドだ。同朋と合流すれば「イオアンネスの至宝」は取上げられてしまう。それに同朋でありながらライバルでもあった彼らに子供にされた惨めな姿を見られたくなかった。メダルドは失敗作で弱っていた、そういう姿をセリーヌにも見せていたから何処かで野垂れ死んだと思ってくれることを願っていた。
当てもなく流離っていると夕暮れ、頭巾にすっぽりと髪を隠した老婆に「フィデール」と声を掛けられた。
「フィデール、良かったお前無事だったんだね。お前はきっと生きてると思ってたよ」
メダルドは天涯孤独だ。関わるまいと無視して立ち去ろうとしたが、老婆と思えぬ素早さでメダルドを抱きしめ、そのまま狭くて猫臭い彼女のアパートに連れ込まれてしまったのだった。
老婆は手料理が上手くて、長毛種の猫はブラッシングが行き届いてフワフワだった。猫の名を
老婆と猫と一つの寝床を共有せねばならなかったが悪い生活ではなかった。
「何処に行ってたんだい?」
「友達と冒険してたんだよ、ちょっと遠くまで行ってた」
「危ないことはしないどくれよ。お前を失ったらばあちゃん生きてけないよ」
(生きてたじゃないか)
とは思えどメダルドにも老婆に愛着が湧いてきていた。
老婆は日がな一日レースを編んでいてそれは見事な物だった。それを売って生計を立てているのだ。
レースを編みながら唄ったり猫に話し掛けたり、フィデールに昔話や彼の亡き両親の思い出話もしてくれた。
メダルドはフィデールとしてしばらく老婆の厄介になるつもりでいた。
仔羊のダンテはシャイだそうだ @xiantee
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