小学生のひかりは、転校先で「こわい話、すき?」というクラスの人気者の問いに「きらい」と答えたばっかりにいじめられるように。家では情緒不安定な母親に怒鳴られてばかりで、彼女の安らぎは自室の押し入れの中だけ。そこには彼女にしか存在を感じ取れない「ナイナイ」がいた……。
冒頭から学校でのいじめ、小学生視点ながらも巧みな文章の効果もあって非常に陰鬱な気持ちにさせられるのだが、このいじめはある出来事をきっかけにいじめはピタリと収まる。さらにお母さんの性格も落ち着き始め、ひかりの日常に平穏が戻ってくる。これでめでたしめでたし……と終わればいいのだが、本作はこの変化の様子が非常に薄気味悪いのである。
そして本作は視点人物が次々変わっていくのが大きな特徴。ひかりとナイナイの話がメインで進むのかと思いきや、物語は盲目の霊能力者とそのボディガードの青年にスポットが当たり、さらに彼らに相談を持ち込んだ女性の話へと移り変わる。一見接点のなさそうなこれらのエピソードがやがて一つの線となって繋がっていく様子はミステリー要素もあって面白い。
扱っている題材が題材だけに万人にオススメはしないけれど、こわい話が大すきな方々には是非読んでもらいたい作品だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
まず第一にとても読みやすいです。
第一章『こわい話なんかきらい』は、子供めいた平易でひらがなの多い文体で書かれているのですが、普通ひらがな漢字のバランスが傾けば読みにくくなるはずなのに、文字の“比率”を変えても“均整”が崩れることはない。
いっそ希薄なくらいにスムーズに読める文章なのですが、それが学校という閉鎖された社会で膨らむ悪意や、一見善良なようでいて確実にひたひたと迫ってくる恐ろしさを見る「ひかりちゃん」の視界なのだと思うと、何とも言えない気持ちに襲われます。言い換えれば、不思議な、ひんやりと涼しい、それでいて心地よい香気があるということです。
さてそこから『「よみご」のシロさん』へと繋がっていくわけですが、この転換も、前章を読んで「いったいどうなるんだろう」とわくわくしている読者にとっては1cmの段差にもなりません。却って彩り鮮やかに感じるくらいです。
こちらの文章も、やはり丁寧で読みやすいことに変わりはなく、穏やかな語り口が世界観とシナジーを生み出しています。
また、中身も非常に魅力的だと言えるでしょう。
何がどう繋がっているのか、それを明らかにする仕方がとても見事ですし、まるで現実と地続きのように思えるリアリスティックな世界観に潜む■■■■、そして人間の持つ悍ましさが素敵に溶け合って、読者を惹き付けます。
ぜひあなたもどうぞ。
いやはやなによりくすぐり方がとにかく上手い。
見事なのは提示される情報量と距離感の塩梅ですよ。まさに作者の掌の上で良い様にビビらされている自信があります。
都合の良すぎる奇怪な出来事や過去の出来事として、ひたりひたりと恐怖がにじり寄ってくる。
視点が何度も変わります。
事態の只中にいる何も分からない子供の視点。
恐ろしい何かが起きていることだけは察し踏み込んでいく大人の視点。
恐ろしさを理解し距離を保つ専門家側の視点。
忍び寄る恐怖が寸止めを繰り返しながら視点が変わるたび、物語は大きく緩急をつけて一息入れさせてくる。
けれど視点人物が見聞きした全てを知る読者にだけは、背筋に冷たい何かが尾を引き積み重なっていく。
得体の知れない何かに翻弄される登場人物に、生半に情報を持つこっちはこうしろああしろ、今すぐ逃げろと指図したくなる。けれど恐怖の本当の姿は我々も知らない。
送り狼のように、恐怖が付かず離れず、けれど決して逃がしはしないという意思を持って迫ってくる。
視点人物の点と点が繋がり収束するのにつれて、恐怖も距離を詰め、こちらを仕留めようと包囲を狭めてくる。
続きの気になる作品です。