第8話 選択の結末
(ほんとに、戻ってる!)
辺りを見回すと、そこは確かに約半日前に希一が宝くじを買った場所。
財布の中身を確認して、希一はホッと胸をなで下ろす。
まだ、宝くじを買う前のようだ。
ふと見ると、遠くから近づいて来る人影が1人。
(あれは・・・・真人か!)
【本日最終日!】の旗が掲げられている宝くじ売り場の前を素通りすると、希一は真人の元へと急いだ。
「真人!」
「あれ、キイっちゃん。どうしたの、こんなとこで・・・・あ」
疲れが見える顔に笑いを浮かべ、真人は言う。
「もしかして、キイっちゃんも、宝くじ買いに来たの・・・・って、ちょっと、キイっちゃん?!」
話途中の真人の腕を取り、希一は歩き出した。
福と楽が奉られている、あの祠に向かって。
「キイっちゃんってば!僕、宝くじ買おうと思ってたのに」
「悪い、真人。頼むから今日はオレに付き合ってくれ」
「どうしたのさ、一体」
「詳しくは後で」
(真人なら・・・・)
真人の腕を掴んで歩きながら、希一は思っていた。
(真人ならきっと、心を込めてお参りをしてくれるはずだ。オレなんかより、ずっと心を込めて。そうすれば、もしかしたら福と楽は・・・・)
祠に向かいがてら、真人には希一の計画を話そうとも思った。
真人なら、話をして頼めばきっと、希一と同じように、福と楽が2人で存在できるように願ってくれるだろう。
だが、それはあくまで、希一のため。
それでは意味が無いような気がして、希一は黙ったまま、ひたすらに祠を目指して歩き続けた。
(それじゃダメなんだよな。なんか分かんねぇけど、オレ達人間が自発的に奉って拝むのが神なら、自発的なものじゃないときっと、意味無いんだよな。そうだろ?福、楽)
やがて、見覚えのある空き缶を見つけると、希一は真人の腕を離し、空き缶を拾ってゴミ箱へと捨てる。
そして、そのすぐ側。
生い茂る雑草を引き抜き、現れた小さな祠の前に立った。
「あれっ?こんなところに祠、あったんだ」
希一の謎の行動を訝し気に見つめていた真人が、祠に気付いて希一の横に並び立つ。
賽銭箱もお供えものを乗せる台も、初めて見た時と変わらず、朽ちて壊れそうになっている。
「キイっちゃん、知ってたの?」
「いや、オレも今日知ったんだ」
「そっかぁ。結構通るのにな、ここの道。僕も全然知らなかったよ・・・・ほんと、ごめんなさい」
最後の言葉は祠に向かって。
真人は希一よりも先に、祠に向かって手を合わせていた。
希一も慌てて、祠に向かって手を合わせて目を閉じる。
(福、楽。オレ、他には何も望まないから。みんなが幸せになれるようにしてくれ。もちろん、福も楽も含めて、だぞ?2人とも、消滅なんてしないでくれ。頼むから!これからはちゃんと、お参りにも来るから!)
「あ、お賽銭も入れないとね」
横から聞こえて来た真人の声に目を開けると、真人は財布を取り出し、何やら悩んでいる様子。
「どうした?」
「う~ん・・・・ほら、さっき買おうとしてた宝くじのお金。全部入れちゃおうかなと思って」
「えっ」
「だって僕、ずーっとここの存在にすら、気付いて無かったんだよ?それって、ここの神様に対して、すごく失礼じゃない?だから、今までの反省も込めて・・・・」
(・・・・お前は、オレの想像以上だな。どんだけ真面目だよ)
呆れながらも、希一は希望の光を見出し、湧きあがる喜びを感じていた。
(これなら、大丈夫だよな?2人とも、消滅しないで済むよな?福、楽・・・・)
「いや、札は1枚にしようぜ。俺も、1枚にするから」
「えっ?」
「で。残り2枚で、飲みに行くぞ!」
「も~・・・・キイっちゃんはすぐそうやって・・・・」
「いいじゃねぇか、久し振りだし。お前だって、『お祈りメール』連発で、滅入ってんだろ?神様だって、たまの気晴らしくらい、許してくれるさ」
「・・・・まぁ、そうかもしれないね」
希一と真人はそれぞれ千円札を1枚ずつ賽銭箱に入れ、もう一度手を合わせる。
「これからは、ちゃんとお参りに来ます」
律儀にも、真人は口に出してそう告げていて。
希一は嬉しさに、顔を綻ばせた。
「手持ちがこれじゃ、こんなとこしか来られないけどな」
「いいじゃん。僕、かしこまったお店より、こういう居酒屋の方が好きだよ」
「・・・・実は、オレもだ」
「うん、キイっちゃん、似合ってる」
「なんだ、それ」
地元の安い居酒屋に入り、希一と真人は久しぶりの酒を楽しんだ。
安い上に旨いと評判のこの店は、客でごった返していて、空席もあまりなく、希一と真人が入ったタイミングでほぼ満席になっている。
「たまには息抜きも、必要だよな」
「そうだね・・・・疲れた顔で面接行っても、受かる訳ないよね」
余程参っていたのだろう。
珍しく、真人が希一の前で弱音を漏らす。
気晴らしにと、希一は真人に例の祠の話をしてやろうと口を開いた。
「なぁ、真人。実はあの祠、な・・・・」
と。
「すいませーん、ここ、相席いいですかー?」
(えっ?!)
後ろから聞こえて来たのは、希一にとっては、ものすごく聞き覚えのある声。
ハッとして振り返ったそこに居たのは。
見覚えのある、背の高い美形女子と、背の低い地味女子の2人組。
「もちろんっ!」
慌てて椅子の上から荷物をどかす希一の耳に、囁くような小さな声が届く。
”ありがとう、希一”
それは間違いなく、楽の声。
希一は湧きあがる喜びを胸に、真人に言った。
「真人もさっさと荷物どかせ。さ、福はあっち、楽はこっち」
「えっ、キイっちゃん、この子達と知り合いなのっ?!」
驚きで目を丸くする真人の前で。
福と楽はコロコロと笑い、心地の良い美しい声をあたりに響かせていた。
【終】
貧乏神と福の神 平 遊 @taira_yuu
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