架空の大陸を舞台に様々な国や部族が争い、時には協力関係を結びながら統一に向けて徐々に動いていく様を描く、十八年にも及ぶ戦記ものです。
物語序盤はレファールという若者が中心となって進んでいきますが、途中からは他のキャラクターたちが中心に描かれたりと、世界に広がりが生まれていきます。
さぞ登場人物が多いだろうと、把握できるのか当初は不安に思いましたが、全くの杞憂でした。それぞれの人物像をうまく印象付けてくれるので、自然と記憶に残るのです。読み進めていくうちに愛着が湧いてきてしまうキャラクターがたくさん! 彼らがどうなっていくのかが、気になって仕方ありません。
国家間のやり取りや巡らせる策略によって少し先の予想が覆されることもあり、気が抜けません。ミベルサはどうなっていくのだろう、そこに居る彼らの生き様を最後まで見届けたい、そんな思いにさせられる物語です。
物語はとある王国の辺境の村から始まる。そこへ後に主人公が所属する国に攻め込まれ、大将として赴任したばかりの主人公は投降する…というまさかの敗北という幕開け。しかしそれは18年に及ぶ壮大な戦記の序章だった。
この作品は異世界ファンタジーというジャンルですが、主人公にチート能力など無く、純粋に戦略を駆使して戦う戦記ものです。
ですが、その架空の世界の描写は緻密で、主人公周辺の人物だけでなく、登場する国々の様々な人間模様がまるで本当にあった歴史の一節のように赤裸々に語られていきます。
そして、あたかも戦国ゲームでどんどん領土を広げていくかの如く、世界のマップが埋まっていく楽しさを存分に感じさせてくれるのです。
ただのドンパチではない、人と人の繋がりも含めて異世界を楽しみたい方はぜひ一読あれ。
国対国という大きな枠組みの中でも輪郭のぼやけない、むしろ一層強い輝きを放つ人物描写が特に魅力的な、とても面白いご作品です!
各陣営が緻密な政略や謀略、作戦指揮を繰り広げるのですが、誰も彼もが確信に満ちた手を打っているわけではなく、苦悩や困惑、逡巡や葛藤といった人間らしい心理描写の秀逸さにもご注目ください!
要人によって異なる政治思想や、指揮官ごとに癖のある作戦立案の傾向など、考察要素も満載の、じっくり楽しめる丁寧なご作品です!
かと言って堅苦しいだけでもなく、軽妙な語り口で分かりやすく説明してくれたり、とぼけた冗談を飛ばしてくれるキャラクターが何人もおられるので、飽きが来ることはまずありません!
作者様が時々まとめてくださる「参考資料:国際関係と人物紹介」に目を通し、どの陣営の誰に注目していくか決めながら楽しんでいくことも可能かと思われます!
主人公のレファールさんだけを見ても、数奇な巡り合わせで実績を打ち立て、評判がやけに一人歩きし、あまりに柔軟な姿勢が各陣営に驚嘆を超えて恐怖を与え、変な奴には縁があり、結婚相手には政略がついて回り、自陣営はいまだ未完成と、どう転ぶかがまったく予想不可能なのです!
この世界の行く先を、あなたも一緒に見届けませんか? オススメです!
"薄い皮鎧越しに分かるほど、二人の護衛は鍛えられているし、表情も精悍である"
「あの馬に乗るのか?」「街の中では乗りたくないな。石畳の上を走らせると怪我をするかもしれん」
いずれも作中からの引用。前者はモブキャラの描写、後者は主要登場人物の会話である。
勘の鋭い読者諸兄姉ならすぐに気づいただろう。
作者の頭のなかでは、正確に世界の隅々までが構築されているのだ。
この非凡な才により、私たちは物語のなかでリアルな体験を得る。
指揮官の部屋に向かうときには扉の前に立つ大柄な衛兵の眼光に気圧され、城下街では欠けた石畳の角に蹴つまずく。
戦記ものが好きな読者の心をわしづかみにするファンタジー巨編である。