小さな瞳に映っているのは

BULLETandARROW

まん丸い目で、見つめられている

今まさに私は、真ん丸な顔をした赤ちゃんに見つめられている。

私の子供じゃない。

私から一人分右に開いた場所に座る女性の子供。

その赤ちゃんは、自分の母親の顔なんか一切見ずに私をじっと見つめている。

遠慮を一切せずに純粋無垢に。

それに応えて私もその真っ黒なまん丸い目に見つめ返す。

多分、私の顔が他と違うから。

私の目は水色で、私の髪はブロンドだから。

だから、きっとその赤ちゃんは私をじっと見つめている。


その時、診察室の中から聞こえた違う赤ちゃんの泣き声に、その赤ちゃんはびくっと反応して、私の顔から視線を外し、そのドアを見つめ始めた。

私は愛くるしくなって、思わずくすっと笑いそうになったけど、マスクの下で微笑むだけにした。

その赤ちゃんの母親に自分の子供を凝視されているなんてことがバレたら、多分左手から右手に抱きかかえるのを変えてしまうから。

そして、二度とその赤ちゃんの顔を見られなくなるから。

多分、自分の子供でもそうだと思う。

他人に自分の子供を「可愛い」って見られるのは嬉しいけど、少し怖いもんね。

ここは日本だから、自分の文化は持ち出さないでおこう。

私たちの国には「あなたの赤ちゃん、可愛いですね」って普通に言う文化があるから。

私はもう結婚できる年齢だから、やっぱり赤ちゃんとか子供とか、見かければ気になってしまう。

可愛い。

自分の遺伝子を受け継ぎ、分身ともいえるような感じで、美しい。

その赤ちゃんはまだ、ドアを見つめていた。

泣いている赤ちゃんから何か言葉を聞き取っているのだろうか。

その泣き声は待合室に響き渡っている。

多分、その泣いている赤ちゃんの母親は今頃、申し訳ない気持ちになっているだろう。


私もそうだった。私が自分の顔を認識し始めた頃に見た外国の人々は私の母とは違って、私の父とは同じに見えた。

そして、自分自身も彼らと同じように見えた。

だから、その赤ちゃんからは多分私は彼らと同じに見えて、自分の母親とは違って見えているのだろう。

そして「ハーフ」という言葉を初めて知った時、きっと私の顔を思い出すのだろう。

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小さな瞳に映っているのは BULLETandARROW @mikadukirui

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