第131話 姉妹と姉弟

「第15回帝都闘武祭⋯⋯優勝チームは白金貨50枚か」

「はい。3対3で戦うチーム戦になっています」

「活躍すると貴族からスカウトが来るみたいだよ」


 それはめんどくさい話だが、白金貨50枚は魅力的な賞品である。


「毎年皇族の人達も来ていたからラニ姉も来るんじゃないかなあ」

「皇族も来ると言うことはかなり大きな大会みたいだな」


 ラニが来るということはドミニクも来る可能性があるな。周囲の目があるから大胆なことはして来ないとは思うが一応用心だけはしておこう。


「今年はミリアとトアちゃんと腕試しに出ようと考えていたのでちょうど良かったです」

「去年の決勝も見たけどボク達の相手じゃないね。優勝間違いなしだよ」

「ミリア、油断は禁物ですよ。どこに強敵が潜んでいるかわかりませんからね」

「そんなこと言ってセレナ姉も優勝できるって思っているよね。だってボク達はパパに修行をつけてもらったんだ。負けるわけないよ」

「そ、そうですね。パパという素晴らしい指導者に教わった私達が負けるなんてありえません」


 セレナまでミリアに乗せられて気が緩んでしまっているな。これはあまり良いことではないぞ。

 自信をつけるのは良いがそれが過ぎると過信になり、格下に負けるなんてよくある話だ。

 お遊びならまだいいが、実戦で負ければ待っているのは死あるのみだ。俺は娘達が敗れて後悔する人生を送ってほしくない。それならば⋯⋯。


「パパ、ボク達絶対賞金を手に入れて見せるからもし優勝出来たら御褒美が欲しいなあ」

「ミリア! パパにおねだりなんてはしたないですよ!」

「え~セレナ姉もパパから御褒美がほしいでしょ? 素直になろうよ」

「そ、それは欲しいか欲しくないでいったら⋯⋯欲しいですけど」


 2人は期待の目をこちらに向けてくる。

 やれやれだな。


「わかった。優勝したら何か1つだけ願いをきくよ」

「本当!」

「本当ですか!」


 2人ともすごい食いつきがいいな。そんなに叶えたい願いがあるのだろうか。


「パパ! お願いは何でも聞いてくれるんだよね!」

「あ、ああ⋯⋯もちろん物理的に不可能なことはダメだぞ」

「大丈夫⋯⋯パパのサインをもらうだけだから⋯⋯ぐふふ」


 ミリアの声が小さくて後の方が聞こえなかったが、何かよからぬことを企んでいそうな笑みを浮かべていた。


「も、もし私が優勝したらパパと⋯⋯」


 そしてセレナは恍惚の表情をしながら何やらブツブツと独り言を言っている。


 これはもしかして早まったことを言ってしまったか。優勝したら願いをきくと言ってから2人の様子がおかしい。

 だがセレナ達が優勝できるとは限らない。


 こうして1週間後に開かれる第15回帝都闘武祭で金を得るため、娘達が出場することになるのであった。



 闘武祭が始まるのは1週間後。俺はそれまでにやらなければならないことが2つある。

 俺は1つ目の用事を済ませるため、騎士養成学校と魔法養成学校へと赴く。

 そして2つ目の用件を片づけるため、俺とルナちゃん、サーヤちゃんは帝都の中央区画へと向かっていた。ちなみにルナちゃんはまだ筋力が足りなくて立つことが出来ないので俺がお姫様だっこをしている。


「私、中央区画って初めて来ました」

「私もです。まあ私の場合はずっとベッドの上でしたから仕方ありませんが」

「そうなんだ。お店の用事とかで来たこともないの?」

「はい。中央区画のほとんどは貴族の方の住まいですから。私なんかが行っていい場所ではないです」

「確かにここに住んでいるのはほとんど貴族達だね。だけどこれからしばらくは中央区画に来ることが多くなるからね」

「それってどういうことですか?」


 サーヤちゃんが疑問を問いかけてきた時、ちょうど目的である場所に到着した。


「着いたよ」


 目の前には大きな屋敷と長々と続いた外壁が目に入り、明らかに周囲の建物とは違う雰囲気を醸し出していた。


「ユクト様、お待ちしていました。どうぞ中へ」

「ありがとう」


 屋敷の門を護っている兵士に中へと通されると腕の中にいるルナちゃんの身体が強張り、サーヤちゃん俺の脇腹の服を掴み、不安そうな表情をしている。


「こ、ここって貴族様のお家ですよね」

「ユクトさんのお知り合いの方がいるの?」

「ああここには⋯⋯」


 しかし俺が説明する前に長い廊下の前方からラニがこちらに向かって走ってきた。


「ユクト様、お待ちしていました~」

「おはようラニ」

「おはようございます。こちらがクラウと一緒に訓練する子達ですか?」

「ああ、そうだ」

「初めましてラフィーニと申します。2人ともとっても可愛いですね」


 俺がラニの言葉に肯定すると、ラニは1度距離を取り、貴族らしく両サイドのスカートを持ち上げ、挨拶をする。


「わわっ! 綺麗な人です」

「ル、ルナと申します。立つことできなくてちゃんと挨拶することが出来なくてすみません」

「サーヤです。お姉ちゃんの妹です」


 どこか緊張した趣で2人もラニに従って挨拶をする。


「ふふ⋯⋯ルナちゃんとサーヤちゃんね。よろしくお願いします。仲良くしてくれると嬉しいわ」

「「よ、よろしくお願いします」」

「さて、後はクラウを紹介しないと⋯⋯ユクト様、こちらへどうぞ」


 俺達はラニの後に続き、屋敷内を進んでいく。


「ねえねえお姉ちゃん、私ラフィーニさんのお名前をどこかで聞いたことがあるような気がするんだけど」

「私もどこか聞き覚えが⋯⋯」


 ルナちゃんとサーヤちゃんがラニに聞こえないようにヒソヒソと話をしている。

 まあこの国の皇女だから2人が聞いたことがあってもおかしくないだろう。


「ユクトさんラフィーニお姉さんっていったい⋯⋯」

「クラウ、こっちに来なさい」


 俺はラニについてルナちゃんの問いかけに答えようと思ったが、中庭に到着した時、今日のもう1人の主役であるクラウくんの姿が見えた。


「ユクトさんおはようございます⋯⋯え~とこちらの子達は⋯⋯」

「ルナちゃんとサーヤちゃんって言うの。私、さっきお友達になったのよ」

「友達! そんな恐れ多いです」

「ラフィーニお姉さんは貴族の方ですよね。私達のような平民とは身分に差が⋯⋯」

「そんなこと関係ないです! 私は身分とかそういうこととは関係なく2人と仲良くなりたいと思っているの。ダメ⋯⋯ですか」


 ラニは2人に拒絶させられたことで捨てられた子犬のような目をしている。


「私はクラウ。できれば姉さんだけではなく、私とも仲良くしてほしいな」


 クラウくんもラニと同じ様にルナちゃんとサーヤちゃんに対して友人になってほしいとお願いする。


「本当に私とお姉ちゃんでいいの?」

「何もない平民ですが私もラフィーニお姉さんとクラウお兄さんと仲良くしたいです」

「「よろしくお願いします」」


 こうしてルナ、サーヤ姉妹とラフィーニ、クラウ姉弟のファーストコンタクトは和やかな雰囲気のまま始まるのであった。

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辺境に住む元Cランク冒険者である俺の義理の娘達は、剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を持っているのに何歳になっても甘えてくる マーラッシュ【書籍化作品あり】 @04020710

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