第40話 でもほらそこに

 宿屋の1階にある酒場で、俺はソニアの姉であるアリサの対面に座っていた。正直この女とはあまりこういう状況で話したいとは思わなかったが仕方ない。


 何しろ、俺達が魔法陣を使ってしまったせいで、今ここにいるエルフィの兄であるエルフィスさんは怪我をしてしまったらしいからな。そのせいでアリアに敵討ちをしたいとエルフィが言っている以上、アリアに迷惑を掛けないためにも色々と話しておく必要があるだろう。


 ・・・・・・・・・あれ?


 俺はそんな事を考えながら、アリアでは無くエルフィの兄であるエルフィスの方を見ながらアリアに話しかけた。


「あの」


「何よ?」


「なんでエルフィスさんはアリアさんと一緒にいるんですかね?」


 エルフィスはロベルトさんと一緒に少し離れたテーブルに座って談笑しながら飲み物を飲んでいた。いやもう違和感しかねーわ。


「なんでって、パーティー仲間だからに決まってるでしょ」


「いや、そうじゃなくてですね?なんかアリサさんと洞窟で別れて、そして怪我して町に戻って来たって聞いたんですよ。こういう場合、また一緒にパーティーに・・・とか難しくないですか?」


 俺は、アリサがエルフィスを洞窟内に置き去りにして逃げた話の事を、かなりオブラートに包んでそう話した。


「ああ、それならロベルトと一緒にこの街に戻ってきた時偶然再会したの。それで向こうからまた一緒に冒険させてくれ!って頼んできて」


 つまりあの男は、洞窟内に置いて行かれて怪我までする事になったにも関わらず、再会したアリアにパーティーに入れさせてくれと自分から頼んだって事か。なるほど全くわからんな。


 しかし、当のエルフィス本人が恨みも何も持って無い・・・つーか、むしろそこまでされてもアリアに夢中な状態では、エルフィの敵討ちもあまり意味が無いんじゃないか?どうにかしてエルフィには敵討ちを諦めさせたほうが良いような気がしてきた。


「見つけたわよ~出雲優いずもすぐる~!」


 俺がそんな事を考えていると、酒場のドアがバン!と開いて、ソニアが酒場へ入って来た。べろんべろんに酔っぱらった状態で・・・。


「うわっ!酒臭っ!エルフィさん・・・なんでこの人こんなに酔っぱらってるの!?」


 俺はソニアに肩に手を回され、うざ絡みされた状態でエルフィにそう問い詰めた。こいつまじでうぜえ!


「私は止めたんですけど、出雲さんが戻るまでここで飲んでようって言い出して・・・」


 こいつ、俺がギルドを見張っていた間、ずーっと酒飲んでたって事か!最悪だな!


「この女は最悪として、エルフィさんにはご迷惑をお掛けしたようで・・・」


「いえ、私もソニアさんを止められず・・・あれ?」


 エルフィは話を途中で止めると、俺の背中の向こう側を凝視し始めた。なんだ?と思って振り向くと、そこにはエルフィの兄の敵であるアリアの姿が。し、しまったああ!酔っぱらったソニアにムカついていたのでアリアの事すっかり忘れてた!


「あれえ・・・。なんでアリアお姉さまがここにいるのぉ?あ!もしかして出雲優さんがここにおびき寄せてくれたのねえ~」


 そして酔っぱらったソニアはそんな事を口走った!


「ちょ!あなた何言ってるんですか!違います!違いますから!」


 俺はジト目で俺を見てくるアリアに必死で言い訳した。この守銭奴は何言ってくれてるんだ!


「えっとですね?こちらのエルフィさんが、ちょーっとアリアさんに用事があるとかで~それで最初ソニアがアリアさんと間違えられてですね、それで今ここにいます!」


「いや、ちょっと何言ってるかわからないんだけど」


 アリアは俺の言葉に訝し気にそう答えた。いかん、俺もかなり動揺しているようだ。


「あのすみませんエルフィさん。ちょっとアリアさんと二人にしてくれませんか」


 俺は涙目でエルフィにそう訴え、しぶしぶ了承された。


「えっと実はですね・・・」


 もうどうしようも無くなった俺は、アリアにすべてを話すことにした。エルフィがエルフィスの妹で、兄を置いて行ったアリアさんの敵討ちに来た事。そしてソニアがアリアに間違われた事。そしてソニアがアリアの場所をげろった事。仕方なく俺達もついてきた事等などだ。


「はあ。そういう面倒ごとはそっちでどうにかしてよ」


 アリアは面倒そうに俺にそう言ってくる。いやそもそもあんたがエルフィスを洞窟内に置いてきたからだろう!と、言いたいところだが、その原因を造ったのは俺達なので、強く出られないでいた。


「えっとエルフィさんかしら?何?兄の敵討ちに来たの?」


「そうです!観念してください!」


 エルフィスはそう言いながらアリアを指さした。


「観念ねえ。でもお兄さんはどうかしら?私の事憎んでいるのかしら?」


「当たり前でしょう!私が兄に変わってあなたを成敗します!」


 力強く宣言するエルフィ。


「でもほら、そこに」


 アリアはそう言って向こう側のテーブルを指さす。そこにはこっちに向って手を振ってるエルフィスがいた。


「兄さんっっっっっつ!?」


 エルフィのすっとんきょうな声が店内に響き渡る。そりゃそうだろうな。


「やあエルフィ、目が覚めたら家から居なくなってたからびっくりしたけど、どこ行ってたんだい?」


 呑気にエルフィスはそんな事を聞いていた。いや、あんたの妹はあんたの敵討ちに奔走していたんだが・・・。しかしそんな妹の状況をしらないエルフィスはそのまま話を続ける。


「そうだ、僕またアリア様と一緒にパーティーを組むことになってさ。偶然この酒場で再会して土下座して頼み込んだんだよ~」


 え?この人土下座までしたの?エルフィも何を言われたのか理解できないでいるのか、硬直したままだ。そして呆然としているエルフィを余所に兄はさらに続けた。


「しかもだよ?僕がしばらくパーティーから離れている間に、新しい男の冒険者が加入しててさ!驚いたよ!だって僕がいない間に絶対アリア様と色んな事してたはずだろ!それを考えると興奮が止まらなくて!」


 エルフィスは興奮冷めやらぬ表情で生き生きとそんな話をしている。こいつ変態かよ!しかもNTR属性まで完備とか完璧だな!そして俺はエルフィの方をそっと伺ってみた。うわあ、死んだ魚の目をしてらっしゃる~。


「えっと、そんな感じみたいだけど、どうする?」


 そしてアリアが困ったような表情でエルフィにそう聞いてきた。


「う・・・」


「う?」


「うわああああああああああああああああああああんっ!」


 そしてエルフィは泣き叫びながら酒場から出て行った。


「ちょ、ちょっまっ・・・あ、あのアリサさん、とりあえずちょっと今回はこんな所で!後、ソニアをお願します!おーい!エルフィ!待ってくれーーー!」


 俺はアリアにソニアの事を頼んで、慌ててエルフィを追いかけたのだった。

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異世界転生したら職業が「勇者の従者」になってしまったんだが クロヒロ @kurogiri

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