第39話 なんでこんな所に

 ニホノワの冒険者ギルドスタッフから、俺がまるで有名人に近づこうとする不審者のような目で見られていると、突然ソニアが俺の前へと出てきた。


「あの、私こういう者なのだけど」


 ソニアがそう言って見せたのはソニアの冒険者カードだった。


「え!あなた勇者様だったんですか!?それは失礼しました!」


 そう言って急にソニアにぺこぺこし始めるギルド職員達。あれ?なんか俺に対する対応と違い過ぎね?


「良いのですよ。こんなモブ顔の従者が尋ねて来たら、警戒しないほうが難しいですからね」


「ですよねー」


 そんな会話をしながらすっかり打ち解けているソニアと職員さん達。


 誰がモブ顔だ!誰が!なんだろう?すげえ腹が立つんだが。いや、そもそも俺がここにいる原因はお前ら天使姉妹だろうが。何なのこの状況・・・。


「ええっ!やだー!」


 俺が理不尽な状況に悶々もんもんとしていると、受付の方からそんな声が聞こえてきた。一体どうしたんだ?そう思いつつ受付の方へ行くと、何故かソニアの話を聞いていた受付のお姉さん達の俺を見る目が冷めたものになっていた。


「そうなのよ、まさかこの男がテーブルの上に乗って、下半身丸出しであんな事をするなんて思ってもみなかったわ」


「いやだー気持ち悪い!」


「おおおおおおおおいっ!お前何を吹聴ふいちょうしてくれてるんだああああっ!」


 ソニアの奴、これが俺が死んだ原因であることは伏せながら、まるで最近やったかのように受付女子たちに話してやがった!


「吹聴も何も事実じゃない」


「そういう事を言ってんじゃねーよ!そんなこと言われたら、仕事がしにくくなるだろうが!」


 俺は断固としてソニアに抗議してやった。しかし、俺のその言葉は、受付嬢達の俺への評価を益々下げる事となった。


「え?さっきのってホントの話だったんだ?」

「え、やばっ!」

「とんでもない変態じゃない」


 受付嬢達は、俺の耳にはっきり聞こえるような声で、口々にそんな事を言ってきた。なんでだろう?ここに来た時は受付嬢と仲良くなる気満々だったと言うのに。今では俺の評判は深海よりずーっと深い底まで落ちてる気がする。


 そして俺はこの現状を作り出した現況、ソニアに向かってこう叫んだ。


「この守銭奴しゅせんど勇者!お前の姉ちゃんに全部ぶちまけてやるからな!覚悟しとけ!」


 俺はソニアを指さしてそう叫び、ギルドから飛び出した!なんでだろう?目から汗が一杯流れるんだが・・・。


「ちょ!待ちなさい出雲優いずもすぐる!」


 ソニアがなんか言ってたが、俺は無視してギルドから走り去った。くそー!絶対あいつより先にアリアを見つけて、洗いざらいぶちまけてやるぜ!


 しかし、だ。俺はギルドからしばらく走った所で立ち止まった。ギルドの方を見ると、ソニアがキョロキョロと俺を探している。しかし俺は物陰に隠れているので、見つかるわけがない。


 あいつより先にアリアを見つけると決めたものの、アリアがどこに行ったのかは皆目見当もつかない。俺に出来る事と言えば遠くからギルドを監視するぐらいだろう。


 そう考えた俺は、建物の陰からそっとギルドを見張ることにした。


 そして8時間が経過した。


 なんでアリアの奴ギルドに来ないんだよ!あれか?もしかして泊まりのクエストとかなの!?え?という事はあれか?ロベルトさんとお泊りクエストって事か!?ぬをおおおおおおお!それ考えただけですげえやる気なくなって来たんだけど!


 いやもうこれ面倒になって来た!幸い小銭はあるから適当な宿に泊まって適当に観光して帰るか!そう思った俺は、ほどほどのランクの宿を探し出してドアを開けた。


「あら?あなた出雲優じゃない。なんでこんな所にいるのよ?」


 宿屋兼酒場のドアを開けると、そこにはソニアの姉天使であるアリアが居た。そしてその隣にはロベルトさんと見知らぬ男が座っている。


「やあ出雲さんおひさしぶり・・・ってどうしました?へたり込んで」


 俺は酒場の床にひざをついてへたり込んでいた。なんでだよ?なんでギルドのすぐ側なのに一度もギルドに寄らないんだよ・・・。しかしそれはアリア達の自由だし、俺がどうこう言うあれはないのもわかってる。しかしアリアを探すのを諦めた途端これだよ?そりゃへたり込みもするだろ。


「いえなんでも・・・。と言うかお二人はお久しぶりですね。そちらの方は初めまして」


 俺はショックから立ち直り、軽く挨拶をした。


「これはこれはご丁寧に。私は「エルフィス」と申しまして、ロベルトとアリア様と一緒にパーティーを組んでいます」


 げ!まじか!しばらく見ないうちに男の冒険者が一人増えてた!・・・ん?んん?あれ?おいちょっと待て。俺はじーーーっとそのエルフの男を観察した。


「あ、あの、私に何か?」


 エルフィスはやや戸惑いの表情で俺を見ていたが、俺はお構いなしにエルフィスを見続けた。このエルフ、なんかどっかで見た事があるのだ。しかもつい最近。


「あの、つかぬことをお伺いしますが、エルフィスさんは「エルフィ」と言う妹さんはいらっしゃいますか?」


「え!?なんで僕に妹がいる事を知っているんですか?」


 エルフィスさんはそれは大層驚いていらっしゃった。つーかマジか・・・。このエルフがエルフィの兄って事だよな。だって顔そっくりだもん。なんて世間は狭いんだ。


「出雲優、一体それがどうしたのよ?」


 俺がそんな事を考えていると、挙動不審な俺に疑問を持ったアリアがそう尋ねて来た。この天使姉妹 は、なんで俺の名前をフルネームで呼ぼうとするんだ・・・。


 いやそれはともかく、これどう説明すれば良いの俺?

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