第38話 ニホノワの街

 俺達は、ソニアの姉がいるという「ニホノワ」という街で、エルフィ、俺、そして俺に首根っこをつかまれながら歩いているソニアと共に、この街の冒険者ギルドを目指して歩いていた。


 何故ソニアの首根っこを俺が掴んでいるのかと言うと、その理由は俺達がこの街に到着した時まで遡る。


「へえ、ここがニホノワか?何と言うかこう・・・和風な感じがするな・・・」


 ソニアの姉であるアリアがこの街に滞在していると聞いた俺達は、馬車を下りて、早速この街の冒険者ギルドへと向かっていた。


 このニホノワという街は、全体的に昔の、と言うか、よく見る時代劇で出てくるような雰囲気の街並みだった。大方ソニアやアリアがTV何かに影響されて作った街ってとこだろう。


「和風?」


「あ、いえいえ、何でもありません」


 俺の単なる独り言を聞いていたエルフィから質問され、俺は焦ってそう返答した。だって和風なんてどう説明すりゃいいんだ?まさか異世界の日本風の事です~なんて説明できるわけがない。


「ところでソニアさん、どこへ行こうとしてるんです?」


 俺とエルフィがそんなやり取りをしていると、いつの間にか俺の手から逃れていたソニアが、俺達の進行方向とは逆の方へと歩こうとしていた。しかもこっそりと。


「え?あ、いや~、ちょっとお花を摘みに・・・おほほほほ」


「ああ、トイレですか」


「お花摘みって言ってるじゃない!なんでわざわざ言うのよ!」


 俺の言葉にソニアはキレている。だが俺は誤魔化されないぞ。こいつ、俺達に見つからないようにこっそりと反対方向へ歩こうとしていたからな。


「それはすみません。しかし、見知らぬ街で一人で行動するのは危険なので、一緒に行動しましょう」


「い、いや大丈夫!私こう見えてこの辺りに詳しいから!」


 俺が一緒に行動しようと言うと、ソニアは慌てた様子で断りを入れてきた。何つーわかりやすい奴だ。しかし俺は諦めないぞ。


「そうですか。ですが、逆に僕達があまり詳しくないので、ソニアさんの案内が必要なんですよ~」


 等と、俺は思ってもいない事を言ってやった。


 元はと言えば、こいつら「一家」のトラブルに俺が巻き込まれた形なのに、その張本人が逃げるとか絶対許さん!そもそも神様があんな場所に送り付けたりしなければ、こんな問題も起きなかったはずだろう?


「という事なので、ささ、はやくお花摘みに行きましょう」


 俺がそう言うと、ソニアは諦めた表情で、とぼとぼと当初の目的地へ向かって歩き始めた。「トイレは良かったんですか?」等とは聞かない。またキレられて騒がれたら面倒だし。


「えっと、あなた達ってパーティー仲間なのよね?」


「そうですが何か?」


 そんな俺とソニアのやり取りを見ていたエルフィが、やや引き気味に質問してきた。なので俺は超真面目な顔をして、そう答えてやったね!


 ちょっとしたアクシデントもありつつ、俺達はニホノワの冒険者ギルドへと辿り着いた。俺達がいつも拠点にしている「スタリア」の街のギルドとは違い、こちらは建物も和風だった。


 ガラガラと音の出る引き戸を開けると、そこにはこれまた時代劇に出てきそうな商人の店が現れた。テレビと違うのはギルドらしく、かなり広めになっているという事だ。


 そして受付にいるのもいかにも悪そうな商人ではなく、着物を着た受付嬢だった。ギルドは日本と同じく、土足厳禁だったようなので、俺達は玄関で靴を脱いでからギルドへと上がった。


「あの、ちょっとお伺いしたいのですが?」


「なんでしょう?」


 受付のお姉さんがニコッと笑いながら対応してくれた。おお・・・着物を着た年上のお姉さん・・・最高だぜ!


「ちょっと出雲優!あなた何鼻の下伸ばしてるのよ!」


「の、伸ばしてなんかいませんよ!」


 俺が着物女子の素晴らしさに感動していると、ソニアがいちゃもんを付けてきた。


「いいですか?僕はですね、この着物と言う素晴らしい文化について深く感動していたんです。変な言いがかりはやめてください」


「いや、凄く鼻の下伸びてたけど」


 俺がソニアに反論していると、何故かエルフィがソニアに加担してきた。


「伸ばしてませんから!それよりもアリアさんを探しに来たんでしょ!」


「誤魔化したわね」


「誤魔化しましたね」


 エルフィとソニアが声を揃えてそう言ってくる。何だよお前ら仲悪かったんじゃないのかよ!なんで揃ってんだよ!


「あのう、そんな所で喧嘩されても困ります」


 俺達が俺の鼻の下が伸びてる伸びてない等という下らない言い争いをしていると、受付のお姉さんが困った顔でそう言ってきた。


「は、ごもっともで・・・」


 くそー、こいつらのせいで恥かいたじゃないか!もうこれ以上こいつらに付き合っても仕方ないので、俺は当初の目的を遂行することにした。


「あの、こちらの街に「勇者アリア」さんが来ていると聞いたのですが」


「個人のプライバシーに関わる用件につきましてはお答えできません」


「・・・へ?」


 俺は予想外の受付のお姉さんの言葉に一瞬固まってしまった。プライバシー?異世界でも守秘義務ってあんの?


「いやあの、僕たちは勇者アリアの知り合いでして・・・」


 俺がそう言うと、お姉さん達は俺の事をまるで「怪しい奴」を見るかのようにしている。そしてため息をつきながらこう言った。


「そうやって、有名人に近づこうとする方、たまにいらっしゃるんですよねぇ・・・」


 このお姉さんは、もう完全に俺の事を怪しい奴として認識されていらっしゃるようだ・・・。気付けば、ギルド内のスタッフの俺を見る目がやばい。


 どうしよう!?

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