第37話 ひいいっ!
「エルフィさん、一体お兄さんはそのアリアって人にどんな酷い事をされたんですか?」
ソニアの姉であるアリアが兄の敵だというエルフィに対して、俺はそう尋ねた。
だってされたことの中身を聞かなきゃ、もしかしたらアリアという名のソニアの姉にそっくりな誰かさんって可能性もあるからな。たぶん100%ないと思うが。
「実は、とあるダンジョンに置いてきぼりにされまして・・・」
「なるほど」
100%無かったです。
やばい!これ絶対あの「アリア」だわ。俺は話の冒頭だけを聞いて確信した。で、多分おいて行かれた男ってのが、このエルフィの兄なんだろう。
それにしてもこの難局、どう乗り切る?俺は隣で知らぬ存ぜぬを貫いているソニアを見ながら考えた。
ソニアは、エルフィの兄の敵がアリアだと分かった瞬間から、ギルド職員達を巻き込んで、今度受けるクエストについて話していて、こっちの話なんか耳に入っていませんよー、な態度を取っている。
見ろよギルド職員さん達、エルフィとの話の最中にいきなりソニアがそんな事を始めたもんだから、すげえ困惑してるし。
大体こいつの姉の話なんだから、ソニアが率先して話を聞くべきだろうが!なんで俺が矢面に立たされているんだよ。
でもさ、これ、アリアがソニアの姉だってばれたら、絶対ソニアにとって面倒な事態になると思うんだよな。そう考えると、どうにか俺が上手くこの場を収めなければな。
そう思った俺は、エルフィに向き直りこういった。
「あ、この人アリアの妹です」
俺はソニアを指さしながら力強く断言してやった。
「ちょっとお!あなた何とんでもない事言ってくれてんのよ!これじゃ私が決闘申し込まれちゃうかもじゃない!」
次の瞬間、ソニアが俺の胸ぐらを掴みながら猛烈に抗議してきた。
「大丈夫!別に相手が死んだわけじゃあるまいし、怪我するくらいで済みますよ」
「全然大丈夫じゃないわよ!何でパーティーメンバーを売ってるのよ!」
「それ言うなら言わせてもらいますけどね!大体、なんで俺があんたの姉のトラブルに巻き込まれなきゃいけないんだ!巻き込まれるなら姉妹だけでお願いします!」
くそー、なんで異世界に来てからというもの、こうもトラブル続きなんだよ!俺は普通に冒険したいだけなんだ!絶対この件には係わらないからな!
「なるほど、あなたはアリアの妹・・・そういう事ですね」
「ひいいいっ!」
俺とソニアが言い争いをしていると、物凄く冷めた声でエルフィがつぶやいた。ソニアの奴「ひい」とか言ってるぜ。ダサッ!
「そして出雲さんは、そんなアリアの妹のソニアさんの従者なんですね」
「ひいいいいっ!」
すげえ冷めた目で見られた!何で俺まで巻き込まれてるんだー!
「ぶ、優さん、ひいとか言ってダサすぎますね!」
「あなたも言ってたじゃないですか!」
「それはともかく!」
「「ひいいっ」」
エルフィが「バン!」とテーブルをたたきながらそう怒鳴ったので、俺とソニアはその場に直立不動で固まってしまった。
「今この場でアリアの居場所を教えるなら、お二人の事は不問にします」
「姉は今、隣町のギルドで依頼を受けているわ!」
そうよね!?とギルドのリリーナに確認するソニア。
「え?あ、はい。現在隣町のギルドでクエストを受注中です」
「だそうよ!」
うわー、こいつ自分可愛さに、姉の事ふつ~うに売りやがった。
ほら見てみろよエルフィのあの顔!すげえ困った顔してるから!まさかソニアが自分の姉をこんなに簡単に売り渡すとは思わなかったんだろう。
「まあいいです。では約束通り、お二人の事は不問とします。それでは・・・」
エルフィは困惑の表情はしているものの、もはやここには用は無いとばかりに椅子から立ち上がった。
「ちょっと待ってください!」
「なんです?」
「俺達も一緒に行きます」
「・・・へ?」
今度は俺の言葉に、エルフィは再び困惑の表情をしたのだった。
そして次の日。
「どうして私達があのエルフと一緒に姉の所へと行かなければいけないのですか!」
ソニアは馬車の中でずーっと文句を言っていた。
「そりゃそうですよ。いきなりエルフィさんがアリアさんの所へ行ったら、そりゃもう大変な修羅場になっちゃうでしょ」
「そんなの私に関係ないじゃない!」
「ソニアさんが喋ったって言ったら、アリアさん怒るでしょうね」
「うっ・・・」
俺は渋るソニアを半ば無理やりエルフィに同行させた。エルフィだけでいかせたら修羅場になる事確定だし、後でアリアからソニアがどんな報復を受けるかわからない。
そうなると俺にも無関係とはいかなくなるので、どうにか仲裁に入らなければ行けないと思ったんだ。
ソニアがペラペラと姉の居場所を喋ったなんて知れたら、あのアリアの事だ、一体ソニアがどんな目に合うか・・・。
最悪の事態にでもなってしまったら大変だからな。主に俺の身がな!
俺はそんな事を考えながら、目の前で膝を抱えて真っ青な顔で俯いているエルフィさんを見た。
「あの、横になってたほうがいいんじゃ・・・」
「いえ・・・お構いなく・・・」
お構いなくって言われても、目の前で馬車酔いしてつぶれている人をほっといて普通に出来る神経はさすがに持ってねえ。
このエルフのお嬢さんは、馬車に乗ってから間もなく、すぐに乗り物酔いをしずっとこの調子だ。
「と言うか、ここに来るときはどうしてたんですか?」
「歩いてきました」
まじかよ・・・。歩いたら3日はかかるって聞いたぞ。
つーか、回復魔法と解毒魔法は馬車酔いに効果ないんだろうか?そう思いながら俺はエルフィに回復魔法を使ってみた。
「あ、あれ?」
エルフィはそう言うと、まだちょっと頼りないものの、俯いていた顔を上げてこちらに向けた。
「あの、今何かしました?」
「もしかしたら回復魔法が効くかもと思って」
この様子じゃ効果はあったらしい。解毒魔法と悩んだんだが、まあ、乗り物酔いはどくじゃないし、回復で正解だったんだろう。
「あの・・・なんで?」
「いやだって、苦しそうだったし、効くかなあって」
「だって私、あなた達の敵ですよ?」
「え?別に敵じゃないですよ?」
「だって、私はアリアに決闘を申し込もうとしてるんですよ?」
あーなるほど。
「いえいえ、あなたの気持ちはよくわかりますし。あ、なんだったら死なない程度に
「ちょっと
ソニアがなんか言ってきたが、俺を耳を塞いで無視することにした。
「・・・変わった人ですね・・・」
エルフィはそう言ったかと思うと、今度は素直に俺の言う通り横になるようだった。これ以降、俺達への当たりもすこし柔らかくなった気がする。
まあ、実際彼女も俺達もアリアの被害者だしな。
・・・というのは建前で・・・。
俺達がアリアの作った魔法陣を使ってしまったことが主な原因だとばれたら、もっと面倒な事態になる事は必至だ。それだけはなんとか避けねば!
ならば俺がアリアとエルフィの間に入ってどうにかするしかない!
あーもう!なんでこっちに来てから面倒ごとばかりに巻き込まれてるんだー!
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