第36話 太鼓判
「ちょっとソニアさん!一体何をやらかしたんですか!?」
「は!?私!?私は何もやってないわよ!大体あなた誰よ!」
俺から疑いの目を向けられたソニアは、突然やってきた少女にキレ気味にそう言った。しかしソニアにキレられた少女は落ち着き払って自己紹介を始める。
「申し遅れました。私、ザーフの妹「エルフィ」と申します。この度、兄の
は?決闘?敵討ち?つーか、ザーフって誰!?
「ちょっとソニアさん、あなた本当に何やらかしたんですか!?」
「何もしてないわよ!大体誰よザーフって!?」
「知りませんよ。でもあの人がそう言ってるじゃないですか」
「敵討ちの対象になるような事なんてするわけないじゃない!大体いつもあなたと一緒にいたでしょ!」
あ、そういえばそうだ。ふーむ、するとこの女の子の勘違いって事?それにしてはすごい剣幕なんだが。
「あのー、この人があなたのお兄さんの敵だっていう証拠とかあるんですか?」
ここまで断言するんだから、何かしらの根拠はあるんだろう。それを見せてもらうことにしよう。話はそれからだ。
「当然です。これを・・・」
そう言って少女は、俺とソニアに一枚の紙を渡してきた。俺はソニアと一緒にその紙を見た。
「こ、これはっ!」
そこにはソニアそっくりの人物の似顔絵が描かれていた。
「これは弁解の余地も無いですね」
「なんでよ!ただ私にそっくりな絵だってだけで、なんでこれが証拠になるのよ!」
「冗談はさておき、一体この絵はなんですか?」
俺はキーキーうるさいソニアを放っておいて、エルフィにそう尋ねた。
「その絵は、兄の敵という人物を知っている人に書いてもらった似顔絵です。それを見た兄も「そっくりだ」と太鼓判を押してくれました」
なるほど。当の被害者本人がそっくりというくらいだし、この似顔絵自体は間違っていないんだろう。・・・ん?被害者本人・・・?
「あの、今、被害者のお兄さんに確認してもらったって・・・」
「そうですよ。兄のお墨付きの似顔絵です」
「えっと、お兄さんは亡くなられたとかでは・・・?」
「勝手に兄を殺さないでください!」
「じゃあ怪我したとか?」
「いえ、ピンピンしてます。昨日も友達と飲んでました」
なるほど。
「お前ふざけんな!こっちはこの守銭奴が人殺ししたのかとすげえ心配したんだぞ!なのに決闘とか敵討ちとか紛らわしいんだよ!大体こちとら勇者の従者だから、勇者が人殺しで捕まって処刑とかされたら俺どうなるんだよ!ってすげえドキドキしたんだからな!」
「痛い!ちょ、ちょっとやめて!頭ぐりぐりしないで!」
俺は思い切りこの女のこめかみをゲンコツでぐりぐりしてやった。こいつまじでどうしてやろうか!
「ちょっと、ひどいじゃないですか・・・」
少女は頭を押さえながら涙目で俺に文句を言ってきた。
「全然酷くねー!つーか、一体何をもって敵討ちとか言ってたんだよ」
殺されたんじゃなかったら酷い事でもされたのか?いや、そもそもこいつは酷い守銭奴だが、勇者の威厳とか尊厳とかが大好きっ子だから、そんな事はしないと思うんだが。
「恋人のような関係でパーティーを組んでいたそこの女に酷い事をされたと言っています。」
「だから、その酷い事って・・・」
「なんですか!私そんな酷い事してませんよ!大体この街に来たのは最近で、出雲優さん以外とパーティーを組んだことなんかないじゃないですか!」
俺が詳細を聞く前にソニアがブチ切れてエルフィに怒鳴っていた。
「そ、そうですよ!」
そしてそれまで黙って事の成り行きを見守っていたギルドの職員さん達が、ソニアを擁護し始めた。
「そもそもソニアさんは、つい先日冒険者登録をされたばかりで、その間ずっとパーティーメンバーは
リリーナは、俺とソニアの冒険者登録をしてくれたので、その言葉に間違いはない。そしてソニアの言う通り、俺とこいつがこの世界に来たのはつい最近だ。
「えっとあの、名前をもう一度言ってもらって良いですか?」
しかしエルフィと名乗る少女は、別の所に驚いているようだった。名前なんて聞いてどうするつもりだよ。
「俺は
「いえ、あなたじゃなくて、そちらの金髪の女性です」
何だ俺じゃないのかよ。恥かいたじゃないか。つーか名前も知らずに決闘申し込みに来たわけ?大丈夫かこいつ。
「ふん!私はソニアよ!そして冒険者の手本となり、皆を平和へと導く勇者よ!」
ソニアは腰に手をやりふんぞり返ってそう宣言した。どこが冒険者の手本だよ・・・。お前みたいなのばっかっだったら、とっくにこの街のギルドはつぶれとるわ!
「・・・え?」
「え?」
「え?ソニア・・・さん?」
「そうよ!私が勇者ソニアよ!」
エルフィは、「え?え?」とか言いながら、しばらく挙動不審な動きをしていたが、やがてピクリとも動かなくなたっと思ったら・・・。
「すみませんでしたあああああああああああっ!」
と、某何倍返しのドラマもびっくりの見事な土下座を敢行した。
突然の出来事に訳が分からず顔を見合わせる俺とソニア。一体何がどうなってんの?
「あの、すみません、お名前とこの似顔絵しか手元になくて、それで今こちらの街に滞在していると聞いて、一目見ててっきりあなただとばかり・・・。
エルフィは、入ってきた時の迫力はどこに、それはそれは小さく縮こまりながら俺達にそう説明してきた。
なるほどなあ。大好きな兄が酷い目にあわされて、それで勇んで駆け付けてきたら、目の前に似顔絵そっくりのソニアが居たと・・・。
しかし名前を聞いてみたら、知ってた名前と違っていて、見事な土下座をかまして今に至っている。
「大体私を見たらわかるでしょ?見てよこのオーラ!私がそんなひどい事をする人に見えますか?どんな酷い事か知らないけど」
知らないなら言うなよ!とにかく、ソニアは自分に非が無い事が証明されると、エルフィに口やかましく説教を垂れている。
こいつ、よくも自分の言動を棚に上げて他人に説教なんかできるな・・・。
「つーかソニアさんは人に説教垂れる暇あったら、俺の分の支度金をよこしてくれませんかね」
それを聞いたソニアはエルフィに対する説教をぴたりと止めた。そして・・・。
「まあ、間違いは誰にでもあるわ。これからは気を付けるのよ」
等と言って、話をうやむやにしようとしていた。こいつサイテーだな!
「あー、それにしてもアリアじゃなくてソニアさんだったなんて。私ったらなんで名前を最初に確認しなかったんだろう」
「おい、今なんて言った?」
「へ?私また何かしちゃいましたか!?」
エルフィは完全に俺にビビりながら固まっていた。今聞き捨てならない名前が聞こえたんだけど!
「いやそうじゃなくて!お兄ちゃんの敵の名前だよ!」
「ああ!えっと、アリアって女です」
それを聞いた俺は、そっとソニアの方を伺った。
そこには、顔から滝のような汗を吹き出しているソニアが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます