第四章 素敵な出会い

第35話 兄の敵!

「ただいま戻りました~」


 俺はギルドのドアを開けると、近くにいたギルド職員のリリーナにそう声をかけた。今日も恒例の生活費稼ぎの為のクエストを受けてきた所だ。ただし・・・。


「あ、お帰りなさい出雲いずもさんソニアさん」


「ただいま戻りました。リリーナさんもご苦労様です」


 ソニアはそれはそれは上機嫌で、リリーナの出迎えに反応していた。出かける時は散々ブー垂れていたくせに。そう、今日はソニアも一緒だ。


 何故いつも少額のクエストを「それは勇者のする仕事じゃないから嫌です!」とか言って断っていたソニアがクエストに参加しているのか。


 前回姉のアリアが現れた事で、自分の無能さを自覚したから・・・ではなく、それは数日前の出来事だった。


出雲優いずもすぐるさん、そろそろ私を勇者としてふさわしい暮らしをさせてみたいとか、そういう甲斐性みたいなものがあなたの内から湧き出たりはしないんですか!?」


 俺がいつものお使いクエストから帰ってきて、ベッドの上で寛いでいると、ソニアがそんなたわけた事を言ってきた。


 なーにが勇者としてふさわしいだ!そもそもお前が勇者にふさわしくないわ!とか一瞬思ったが、言うと絶対面倒になる事が分かっていたのでそれは黙っておいた。


「もっと贅沢ぜいたくがしたいなら、ソニアさんもお金を稼ぐ方法を考えて下さいよ」


「何故高貴な天使である私が、そんなお小遣い稼ぎのようなことをしなければいけないのですか!?そういうのは従者のあなたがやってください!」


 そう言うとソニアは「ぷい」とそっぽを向いてしまった。


 こいつまじむかつくわー。


 大体異世界に来るときは、俺を立派に導いて差し上げますとか何とか調子の良い事言ってたくせに、実際こっちの世界に来たら、俺のひもみたいになってるし。


 神様からもらった支度金だって、日々の生活で目減りしていってるだろうに、こいつはちっとも働こうとしない。


 そしていつも決まって


「そういうのは従者のあなたの役目でしょ?」


 等と当たり前のように言う。


 大体こいつが俺を従者なんかにするから色々と不便が出てるだって事を、この天使様は1ミリでも理解しているんだろうか?もっと使える職業になってたら、もっと効率よく金だって稼いで来れるっつーの。


 そもそも前提条件として、なんで俺がこいつを養う事になってるんだよ。


 とは言ってもなあ・・・。ギルドの説明によれば、勇者の従者となった者は、勇者が死んでしまうと従者である自分も死んでしまうらしい。


 なので俺は不本意ながらもソニアを餓死させたりするわけにはいかないのだ。


 こいつが死ぬと俺も死ぬからな!


 俺はそう思いながら、「ちょっと!そこは私の領土ですよ!領土侵犯よ領土侵犯!」とか言いながら、俺をベッドのさらに端に追いやろうとしているソニアを見た。


 こいつは自分の父親代わりの神様から「はずれ」のくじに入れられたかわいそ~な奴なんだ。どこの世界に親からはずれくじに入れられる娘がいるだろうか・・・。そう考えたら多少のわがままは許してやっても良いかもしれないとは思っている。


「さてと・・・」


「なんですか?」


 なので俺は今後の方針をソニアに伝える事にした。


「ソニアさん、今後あなたのお金が無くなっても僕は関与しませんので。あ、でも、死なれても困るので、最低限の食事代だけは出しますね。それと宿代が払えない場合、クエスト報酬から天引てんびきしますので」


「はあ!あなた私の従者じゃない!従者が主人の面倒を見るのは当たり前でしょ!」


「ええ、ですからあなたが死なないよう、最低限の面倒は見ます。大丈夫、ベッドで眠らないくらいじゃ死にませんよ」


 そうにっこり笑いながら言ってやった。


 しかし何故かソニアは真っ青な顔になって、次の日俺がクエストに行くというと「私も行きます!」と言って、俺についてきたのだ。


 そしてクエスト先のおばあちゃんの家の草むしりでは、草むしりは全部俺に任せて、こいつはおばあちゃんとお茶を飲みながら世間話をして、さっき帰って来たところだ。


 そりゃお茶飲んで世間話して金もらえりゃご機嫌だろう。しかしクエスト内容が、草むしりと話し相手だったので、一応仕事と言えば仕事なんだよなあ・・・。


 出かける時は、なぜ天使で勇者な私が草むしり何かしなきゃいけないんですか!等とずっとぶつぶつ言っていたのに。


 あー、うまくいけば、今頃アリアと一緒に夢のような冒険者生活が待っていただろうに。


 実は、あの後アリアパーティーに遭遇したのだが、アリアはロベルトさんに対してかなり過保護らしい。


 怪我をしたら手厚くヒール。危険な敵はアリアが一手に引き受ける。理由を聞いたら「私が勇者なのだから当然でしょ」だとよ。


 これは全部ロベルトさんから聞いた話だ。


 いったいどういう風の吹きまわしかと思いこっそりアリアに尋ねたら「あなたがパートナーを大切にしろと言ったんじゃない」と言われてしまった。


 確かに俺は「大切にしないと誰も好きなってくれませんよ」とは言った。けど、それをすぐに実行に移すとは思ってもみなかった。


 つまり今のアリアは「サイコパス痴女」から「サイコパス」が抜けた、過保護で一途な「痴女」になったわけで・・・。


 もしアリアが俺達のパーティーの入っていれば、今頃俺はアリアによって大人の階段を登っていたに違いないと思うと、悔やんでも悔やみきれない!


「ちょっと!私の話聞いてるんですか?今回のクエストは二人で達成したんですから、報酬も山分けですからね!」


 しかし現実は、お小遣い程度の報酬にも執拗な執着心を見せる守銭奴天使のソニアがパートナーだ。


 今度イラっとさせるような事言ったら、山分けの条件として天使の箱に入っている残金を見せる事を条件にしてやる。そして俺の分が減ってたら報酬から天引きしてやる! 


「たのもー!」


 俺がそんな事を考えていると、ギルドのドアが勢い良く開けられた。


 そこに立っていたのは俺達と同じ年齢位の少女だった。ただ一つ、耳が異様に長い事を除いては。


 おお!これってエルフじゃね!俺初めて見たよー。聞いていた通りすげえ美形だ。


 俺がそんな事を考えながらぼーっと少女を見ていると、その少女は何故か俺達の方をしばらくガン見した後、つかつかとこちらへと歩いてきた。


 え?何これ?え?もしかして俺達、運命的な出会いをしてしまうのか?


 俺がそんな妄想に浸っていると、彼女は自分の手に持っている紙のような物と俺達・・・というより、ソニアを何度も見比べた後こう言った。


「見つけたわ!お兄様のかたき!」


「「・・・は?」」

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