読了後の『君』の夜4


 🌙 🏠 📱


「厨二かよ……」

 布団の中でスマホの画面を動かし続け、

 ようやく最後のオチまで読み終えると、

『君』はつぶやいた。


 つまり、この物語の舞台設定は異世界ではなく現実世界で、

 主人公が冒険者として描かれている様子は、

 実はすべてネトゲのプレイ描写だったという事か。


 会話に鍵括弧カギかっこが二種類あったのはそのためか……。


「」の鍵括弧が使われているのが直接リアルの会話で、

 そして『』のほうがネトゲ内でのプレイヤーや視聴者との会話だった、と。


 家族が主人公の女体化にツッコまなかったのも当然だ。


 それはあくまで主人公本人ではなく、

 ネトゲのアバターの事だったのだから。



 ――しかし、そうやって改めて物語を見返すと……、


「主人公、どうしようもないな……」


『君』は思った。


 いいトシこいて親のスネをかじり続けておきながら、

 その親の言う事全てを拒否して、

 それでいて何も行動しようとしない。


 あげく家を追い出されて逆恨み……。


 そして、キレてカツアゲを刺殺か……。


 クズにはふさわしい末路だな。



(だが……)

『君』は思った。


 それでも、この主人公に同情してしまう自分がいる。


 常に優秀な誰かと比べられ、

 常に高圧的な誰かに押さえつけられ、

 常に自分のやる事を否定され続け、

 常に身近な者たちにさげすまられ……。



(自分にも覚えがある……)


 もしかしたら、

 自分もそうやってどん底に落ちていたかもしれない。


 今、不満だらけの毎日ではあるが、

 かろうじて社会の底辺をはい回れている事も、

 ただ運が良かっただけの話だ。


 この主人公と同じで、

 何かを頑張って積み重ねた記憶もない。


 それは、勉強、運動、労働、

 どのジャンルでも何の成果も得られなかったから、

 結果を出せていないから、そこまでの過程に意味を見出せていないのか。


 それとも、

 本当に『君』はここまでの人生で、何の積み重ねもなかったのか。



(分からない……、

 何も分からない……)

 物語にハマると没頭してしまう『君』は、

 不必要なほど考え込んでしまう。


 それも悪い方向に。


 明け方近く、

 頭が重くなるまでスマホで作品を読み続けたせいもあるのだろう。


 こうやって、

『君』はよく読了後に気落ちするのだ。


 こりずに夜更かしの閲覧で生活のリズムを乱した事に。


 そして今回は、

 それに加えて哀れな主人公と『君』自身を重ねて見てしまったために……。


「『おれ、いったい何やってんだろ……』」

 いつか見た、漫画のセリフをつぶやく『君』。


 

 ――だが『君』は、この悪癖を改められない。

 

 小さな、ほんの小さなきっかけがあれば、

『君』はまたスマホ片手に、底辺でもがく自分に刺さる物語を求めるのだ……。


 そう、

『君』はまだ……、


 この沼から抜け出せない……。 



【陰鬱の異世界配信編 完】





 ________________


 そして『君』は忘れない。


 最後まで読み切った作品には、

 応援ボタンとスターを押して作品を評価しなければ、という作者への配慮の気持ちを。


 他者の気持ちを想える『君』は、描かざるを得ない作者の心情を想ってそのルールを破れない……。

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社会の底辺でもがく『君』はNARROW系の沼にはまる NOみそ(漫画家志望の成れの果て) @botsunikomi

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