配信冒険者、その旅の終わり


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 俺は、父が運ばれたという病院へと急いだ。


 入り口で待っていた母に連れられて病室に向かう。


 扉を開けて中に入ると、ベッドの上で治療を終えた父が静かに眠っていた。


 そばの椅子には兄のハルトが座っている。



 父の寝顔を見て俺は、


(こんなに、老けていたか・・・?)

 と思った。


 思えば、父の顔をちゃんと見たのはいつ以来だろう。



「心筋梗塞だ」

 兄のハルトが簡潔に言った。


「命に別状はないらしい」


「そう・・・」

 と、俺はそう答えるしかなかった。


「・・・」


「・・・」


 気まずい沈黙。


 兄弟とはいえ、

 俺とハルトはもう何年もまともに会話をしていない。


 兄は、全国的にも有名な、T学院大学に合格し、

 優秀な成績で卒業した。


 卒業後、父が『当主あるじ』であるし、上司たちの受けも良いという。



富豪かねもち』の父と同じ『貴族かちぐみ』の人間だ。


 ――俺とは違う・・・。



 に三度も失敗した俺は、

 父の嫌味と兄の憐みの目、母の弱者を慰めるような優しさに気持ちをむしばまれ、自室に何年も引きこもった。



(何かしないと・・・、何とかしないと・・・)

 そうやって、俺はずっと悩み続けていたのに、

 家族にはただの甘ったれにしか映らなかったのか、


「いつまでそうやっているつもりだ。

 ハルトを見習って、少しは根性を見せてみろ」


「家事ぐらい手伝えよ。

 このままじゃただのパラサイトだぞ」


「通信大学とか試してみない?

 受験しなくても入学できるから」


(うるさいうるさい!

 偉そうに指図するな!!

 俺を苦しめている張本人のくせに・・・!

 そんな相手の言う通りに誰がするか!!)



 現実が、毎日が苦しかった・・・。


 何かに没頭したかった。


 だから、ゲームにはまった。


 といった携帯ものなら、

 部屋を出ず、テレビのない自室でもできた。


 やがてを始めた。


 俺は、

 冒険者として現実とは別の人間としてふるまえた。


 レベルが上がると、まるで俺自身が成長したように思えた。


 冒険者としてクエストをこなし続けることで、

 自分の人生を一歩一歩進んでいるような錯覚を味わえた。


 他の冒険者との交流も楽しかった。


 現実の肩書など関係なく、

 俺はそこでは優秀な冒険者、勝ち組として見てもらえたからだ。



 ――それでも、現実を完全に忘れる事はできない。


 生きるために金を稼げるようにならなければならない。


 だが、現実に働くのは嫌だ、怖い・・・。



 俺はゲームのプレイ動画を配信して、金を稼げないかと思った。


 もちろん最初からうまくいったわけではない。


 時間もかかった。


 工夫もし続けた。


 操作する冒険者のアバターを視聴者受けする姿にしたり、

 ボイスチェンジのマイクで実況の声を変えたりと、

 試行錯誤を繰り返しつつ配信を続けている内に、

 結構な額を投げ銭してくれる固定ファンも付き、

 何とか動画配信者として、そこそこ安定した収入を手にできるようになったのだ。



 だが、これからと言う時に俺は家を追い出された。


 家族の誰も、俺のネトゲの配信活動を理解してはくれなかったのだ。


 幸いにもPCなど配信に必要な道具は一緒に持っていく事ができたが。


 それでも、俺なりに頑張ってきた努力を否定されたのは悲しかった。



 ――俺は安いに連泊し、そこで配信活動を続けた。


 ゲームの中で俺が他の冒険者に家を追い出された経緯を語ると、

 彼らは共感してくれるどころか俺を馬鹿にした。



『はぁ?家を追い出された!?』


『配信活動で稼ぐ?

 そんなの無理に決まってんだろwww』


『ゲームなんてしょせん息抜きじゃないですか。

 配信活動は否定しませんが、それに逃避して現実の義務を放棄するのは間違っていると思います。』


『なさけね~w

 マジでこんな大人にはなりたくないわ~ww』



 ――ショックだった。


 裏切られたと思った。


 の中で、現実の立場を持ち出して人の傷口をえぐるなんて・・・。


 その夜、

 居酒屋で浴びるほど酒を飲んでも、

 気が晴れる事はなかった。


 そして帰り道、俺はカツアゲに遭った。


「おい、金あるんだろ?

 大人しくよこせよ」


 そして、奴らの人を見下した態度が、

 遂に俺のどす黒い感情を起こしてしまった。


 俺は護身用に携帯していたナイフを取り出し、

 何のためらいもなく奴らの一人に突き刺したのだ・・・。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~


 憂さを晴らせたせいか、

 俺は少し冷静になって考える事ができた。


(どうすれば、ネトゲの動画配信で稼ぐ事が出来るか・・・)


 今までよりもっと視聴者受けするには・・・、

 アバターの見た目を変えるべきではないか。


 俺はアバターを新しく登録しなおし、

 リュオと名付けた。


 女冒険者リュオのプレイ動画は、

 いままでよりはるかに人気を集めた。


 投げ銭してくれる視聴者の数も増えた。


 毎日のホテル代と食費くらいは賄えるほどに・・・。



 そうやって、俺は配信を続けていった。


 毎日が充実していた。


 そして、遂に現在配信中のラスボス的なモンスターも倒し、

 生まれて初めて俺は、

『これだけの事を成し遂げた』という達成感を味わう事ができたのである。



 ――だが・・・、


 今、こうして年老いた父の姿を見て、

 その全ては音を立てて崩れ去った。


 これが現実なのだ。


 現実からは逃げられないのだ。


 ネトゲの世界でいくらもてはやされようと、

 そこでどれだけ楽しい時間を過ごそうと、

 現実の悲観的なイベントひとつでかき消される。



琉斗りゅうと、帰ってきて・・・」

 泣きながら母が言う。


 母の泣き顔などいつ以来だろう。



「お前の部屋は、ずっとそのままだ・・・」

 兄の晴斗はるとが言う。


 いつもの見下した感じはみじんもない。



 だが俺は、


(何で、今こういう事を言うんだよ・・・。

 何でこうやって俺を動揺させるんだよ。

 こんなもの見たくないのに。

 ずっと配信に集中し続けていたかった。

 頭の中をそれだけで占めていたかったのに・・・)

 そう思った。


 それが自分の本心なのか分からない。


 父親の心配や、家族への懺悔の気持ちがあるのか、ないのか。


 これまで家族に圧迫プレッシャーをかけられ、

 精神的に押さえつけられていた事実を忘れられるのかどうか。


 俺は家族と一緒にいるべきなのか、

 それともこのまま離れるべきなのか。


 どうしたい?


 どうすればいい?


 分からない・・・、

 何も分からない・・・。



 ――だが、一つだけ分かっている事がある。


 俺が今、何をしなければいけないのか・・・。



・・・」

 そう言って俺は病室を出た。


 受付の看護師に一礼して病院の外に出ると、

 俺はスマホを取り出した。


 1、1、0と押し発信すると、

 すぐにつながった。


「もしもし、お忙しいところすみません。

 実は、人を刺したので自首をしたいのですが・・・」



【配信終了】







 _______________________


《あとがき》


 ここまでお読みいただき、

 本当にありがとうございました!


 

 楽しんでいただけましたでしょうか(笑)?


 ゲームはいいですよね。


 本当に、現実と交換したいくらいです。


 そんな現実で受けたダメージを回復させるため、

 私はこれからも作品を描いていきますので、

 どうかこれからもよろしくお願いします!


 また次回作でお会いできますように・・・!


 そして、

 最後にぜひ、

 画面をスクロールして、

『応援』や『スター』、

 可能でしたらレビューもよろしくお願いします!!



 黒川くろかわ 明菜あきな




 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~



 作者:黒川くろかわ 明菜あきな


 作品名:

『実家を追い出され文無しとなったB級冒険者、性別を偽り冒険配信で成り上がる』


 ――読了。










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