第20話 カップル
「ほんっとごめん!」
そう言って息切れを整えながら七海の様子を伺った。
オーバーオール姿で化粧をした、いつもとはまた違う七海がそこにいた。
くぅ、可愛すぎる。可愛すぎて息が余計切れそうだ。
「もー、ここの駅にある店全部網羅しそうだったんだからね」
「ごめんよお」
「うそうそ、なんならここら辺1人で散策してみたかったからちょうど良かった」
「なんか人格変わった?優しくね?なんか買って欲しいとかですか?」
「ちーがーうーしー」
「あ、そーいえばこれ見つけたからあーげる」
そう言って七海は、私の推しがコラボしているグミを渡してきた。
「え!え!どこで見つけたのー!」
しかも2袋。
「んー、ぷらぷらしてて喉乾いたからコンビニよろ〜と思って行ってみたら、おまえさんの推しと目が合っちゃったわけですよ」
「ほんと?くれるの?いいの?」
「いえいえ、どーってことねーですよ。おまえさん、喜びそーだなーと思って」
「ありがとぉぉ!!」
正直、推しのグミを貰った嬉しさよりも七海が自分に買ってきてくれたことの方が数倍嬉しい。
しかも「喜びそーだなー」って…
おまえがそんなこと考えてくれるだけでこっちは十分喜んでるよ!幸せの絶頂だわ!
「……グミ貰っただけで幸せの絶頂!みたいな顔する人初めて見た」
あれ、思ったことが顔に出やすいの代表は私の事かな。
「でもまじうれしい。ありがと!」
そう言ってつい、いつものくせで肩に手を回した。
七海のいい香りが頭をピリッと痺れさせ、落としにかかってくる。
「やっ、…やめてよ」
首周りを触られるのが嫌な七海は、いつもなら秒速でその腕を振りほどいているが、今日は少し違った。
振りほどこうとしてこない。腕は首に当たっているはずなのに。
それと一緒に顔もこっちを見てくれず、ずっと反対方向を見ている。そのおかげで髪の毛のシャンプーか何かのいい匂いがする。
嗅いでる時点で変態すぎて手に負えないのだが。
こいつの体、どこからでもいい匂い垂れ流してやがる。
「おまえ照れてんの?可愛いとこあんじゃん」
そう言ってほっぺをツンっとすると、さすがに嫌だったのか、
「うるせ、黙れよー!」
と、やっと裕柊の腕の中から逃亡した。
「可愛いな、おまえ」
「うるさい」
そうこうしてるうちにスターバックスの近辺まで来ていた。
やはり休日は、年中無休でスタバ通いなリーマンや、イケおじに追加トッピングで舌のお高い中坊といちゃラブカップルまで居る。
そのうちの1組のカップルを見て
「ねー恋人欲しい」
と七海が呟くように願望を声に出し、裕柊のフラフラしていた腕を軽く組んできた。
「おまえ見る目ねーから高校中は出来ねーよ」
「だーまーれーよ」
「あと、私と一緒にいる限りは出来ませーん」
「なんでよ」
「私が全部食べちゃうからでーす」
「わからな!」
そう言い合いながら列を並んでいると、そばに座っていたらしいおじいちゃんが、
「お2人方、仲がいいようじゃの。可愛いカップルじゃわい」
「「んなっ!」」
「カップルだなんて、…違いますよー!そーだよね、?」
目に見えるように動揺が隠せてないのが逆に面白くなってきた。
「うちの、かわいいでしょ?」
おじいちゃんに自慢してあげてみた。
七海の顔がみるみる赤くなってくのが分かった。
それでも忘れているのか知らないけど腕はずっと組まれたままだ。ずっとそうしててくれ。その間はずっと幸せに包まれるのだから。
「おぉー、君ら2人可愛いのお。この一瞬の青春を楽しむんじゃぞぉ」
そう言っておじいちゃんはゆっくりと立ち上がり、席を外した。
「面白かったね、あのおじいちゃん」
素直な感想を述べると、
「…うるさい」
言葉とは裏腹に組んでいた腕をより強く引っ張ってきた。
「…この腕ちぎれそーですけど」
「この方が落ち着くだけだもん」
「あーそうですかー」
「…でも、傍から見るとカップルに見えるもんなんだね」
「そりゃあ、こんな短髪で口調男みてーなのと一緒にいたら間違えられますよ」
「裕柊は気づいてなかったかもしれないけど、ここに来るまでに中学生何人か通って、全員私たちのことコソコソ言ってたよ」
「うぇ、そんなに?」
「うん」
「気になるなら聞いてこりゃ良いのにな」
「そっか、カップルに見えるもんなんだ」
「なに?嬉しそうだけど」
「ぜーんぜんそんなことないですぅ!」
「はいはいそーでしたかー」
内心こっちはほんとにそうなって欲しいんだけどな。
願ったり、叶わなかったり。 たなばた @i0i0_if
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