漆【夜更けからの回答】

 僕はずっと姉に憧れていた。

 小さい頃から優秀で高校は街一番の進学校に通い、大学も国立名門校。

 どんなに難しい問題でも謎でも、華麗に解いて、自分の道を切り開いていく、その姿に死ぬほど憧れていた。

 

 そして、いつしかその尊敬の気持ちは、彼女を打ち負かしたいという闘志へと姿を変えていった。


 この闘志は大きく燃え上がりはしなかった……ただ、小さく小さくずっと灯り続けていた。


 ある時、姉が言っていた。


「安藤名人ってすごいよね、私もあんな風にもっと立体的に思考できるようになりたいな」


 あの強い姉が尊敬する人物。

 僕は将棋をやらないからあまり凄さがわからなかったけれど、それを姉から聴いたとき、ある一つの戒律を作った。

 

 "この名人が戒律を破ったときを戦いの狼煙にすること"


 ちょうど相撲取りから殴られかけた後だった。

 あとはこの名人の "禁じ手"さえ揃えばいい状態だったのだ。


 そして狼煙は予兆なく上がった。

 僕はその時が来るとは思わなかったから心底、驚いた。

 だけど、僕は逃げるわけにはいかなかった。

 僕が使える禁じ手はたった一つだけだから。

 

 瞬間的に覚悟を決めて、僕は探偵に予告状という名の挑戦状を叩きつけた。


──────────────────

 

「よ!おはよ!」


 僕の目の前には探偵ではなく、僕の姉がいた。

 どうやら椅子の上に寝かされていたらしい。体中が凝り固まって痛い。


「警察に行ってくるよ」


「え、なんで?」


 姉はきょとんとしている。まさか昨日のことは全部、夢?いやそんなことは絶対にない。


「だって僕は昨日……」


「なんのこと?」


「いや、だから……」

 

「まーまー落ち着きなされ」


 姉はなだめる仕草をしながら僕にメモ書きを渡した。

 そして黒のパーテーションの向こう側へそそくさと戻っていった。

 


 その紙にはこう書いてあった。 




「また向かってこいよ」

 

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夜更けの探偵 ユキ @YukiYukiYuki312

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