兎蛍

 砂漠さん、意外といい詩を書くな。とは思った。

 何気に日本語のセンスがいい。語感とか語呂とか、何となくいい。基本的に表立って褒めることはしないけど(こいつ調子乗るし)、まぁ、いいな、とは思ってやってる。


 まぁ、そんな感じで、詩もできたわけだし。

 

 本人不在の「みやこのおはようラジオ」で詩を公開。「カクヨム」は元々文学媒体だから詩の公開は割とスムーズ。色んな人の目に砂漠さんの詩が留まった。いいんじゃない。こういう活動こそ「カクヨム」。


 なんて、ぼちぼち思っていた時だった。

 おはようラジオはだいたい一時間くらいのお届けなんだけれど、その終盤、ラスト五分くらいでいきなり、チャットが飛んできた。読む。


〈素敵な詩。私のメロディと合いそうです〉

「えーっと、このメッセージは……」

 ナナシマイ、さん? 

「カクヨム」の検索機能を使ってナナシマイさんを調べる。ちょっとだけ作品にも目を通す。何だか温かい雰囲気の方だな。


〈音源添付します。よければ使ってみてください〉


 なるほど。

「よし」

 試しに、砂漠さんの詩をナナシマイさんのメロディに合わせて口ずさんでみる。

 うん。いけるんじゃない? 何だかクリスマスソングになりそう。ただ何かが足りないなぁ。私音楽に詳しくないからイマイチ分からないけど……。


 ま、しかし。

「砂漠さん。このナナシマイさんの音源に砂漠さんの詩を合わせてみて、ラジオで流してみてもいいですか」

「えっ? いいけど」

 流す。それから私はラジオで問いかける。


「この曲、何かが足りないと思うんですけど、音楽詳しい方いたら、是非」

 おはようラジオは九時までの放送。現在八時五十七分。三分じゃ応募してくれる人はいないかなぁ、なんて思っていたら、いきなり。


〈一時間くらいかけて合わせてみました。伴奏です。使ってください〉

 メッセージ。From白里りこさん。一時間くらいかけたって、さっき募集してからまだ三分も経ってないんだけど……? 


 まぁ、いい。ここは「カクヨム」だ。時間を弄る能力の作家がいても何らおかしくはない。何だったら私不死身だし。


 早速送られてきた伴奏を詩とメロディに合わせてみる。おお、ぴったり……! すご、一曲出来た。


「え、すごいすごい。作品が出来た」

 クリスマスイブの朝に作品ができるなんて、何だかサンタのプレゼントみたいだ。待てよ、そうだ、せっかくだから……。


〈X1エリアにいます。よかったら来てくれませんか? 生演奏しません?〉

 チャットを使ってナナシマイさんと白里りこさんにメッセージを送る。少し、検討する時間があったのだろう。でも八時五十九分には。


 二人がワープでやってきた。頭にティアラを乗せたオペラグローブの女性と、緑のワンピースにバイオリンを持った女の子。


「じゃあ早速……」

 と言ってみると、ナナシマイさん、白里りこさん(どっちがどっちかは分かってないけど)、そして砂漠さんが慌てる。


「待って待って。誰が何やるか……」


 私は微笑む。

「ナナシマイさんがメロディ」

 オペラグローブの女性が反応する。

「白里りこさんが伴奏」

 緑のワンピースの女性が反応する。

「で、砂漠さんが歌詞。歌ってね」

「え、私歌うの?」

 一人は嫌だよぉ。そんなことを言う砂漠さんのために、私。

「じゃあ高音と低音分けよう。私高いパート」

「待って待って、メロディライン、パート分けしてない……」

「伴奏も若干変えた方が……っていうか人足りない気がしますね」

「『音が鳴る』小説描写をすれば補えないですかね」


 と、そんな風にわちゃわちゃしてから。

 ある程度体裁が整って、四人で息を合わせる。十二月二十四日の朝。おはようラジオの延長で、こんな曲を。


  クリスマスだね

  今年はどんなことをした?

  新しい年が来るよ

  君が楽しんでるといいな


  クリスマスだね

  僕は何ができたかな?

  一年が終わるよ

  来年も楽しいといいな


  クリスマスだね

  みんな楽しんでいるかな? 

  時が過ぎるのは早いね

  今年も楽しい年だったな


  クリスマスだね

  来年は何をしようかな? 

  時間がゆっくり過ぎていくね

  僕も何だか楽しいな



 うん、意外と、悪くないんじゃない? 


 さ、そういうわけで。


 演奏が終わってから、ラジオに向かって、一言。


「ハッピークリスマス。皆さんよいお年をお過ごしください」 

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