砂漠の使徒

 ねっむ。まぁでも、日課だから。


「カクヨム」にアクセス。最近このVR装置窮屈なんだよなぁ。もっと性能いいやつ買ってもらお。だいたい大学生にもなってこんなお古使ってる方がおかしいんだ……。


 そんなわけで、「カクヨム」。

 朝だから、いや朝だからこそ来ている人はいるけれど、でもやっぱり朝だからこその世界。せわしないというか、急かされてるというか。のんびりしてるのなんて、僕と彼女くらいのものなんじゃないかなぁ。


 きっかり八時。僕は「カクヨム」の音声サービスを利用する。


「おはようございます皆さん。みやこのおはようラジオです。本日も本人不在でお届けします。さて、今朝の日本語知識。『おはようございます』を逆にするなら『おそうございます』です。『おそよう』じゃありません。何故なら『おはよう』の『よう』は『はやい』の活用『はよう』の『よう』の部分なので、もし『随分遅くまで寝てたんだな』という皮肉の意味を込めて『おはようございます』を言うのであれば『おそい』の活用『おそう』を使うのがただし……」


「長い」


 やってきた。

 兎蛍さん。このところ僕がおはようラジオをする時の相方をやってくれる女の子。


「朝ごはんは?」

 だらっとした調子で僕に訊いてくる。お前なぁ、VR空間上とは言え、一応人と会っているんだからもうちょっとしゃきっと……。


「まぁでも実際、学校の教師とかで『おそよう』とか言う奴いるけど、引くよね」

 欠伸をしながら兎蛍さん。

「教師のくせに正しい日本語も知らねーのかって思う」


「そう、そうなんだよ。この『おそようございます』は圧倒的に教師の使用率が高い言葉だと思うわけ!」

 流行ってんのかな? なんて下らない話からラジオはスタート。


「流行と言えば今年のクリスマスは何が流行るのかねー?」

 兎蛍さんが背伸びをしながら訊いてくる。和装をしている彼女から「クリスマス」という単語が出てくるのがちょっと新鮮。


「何か大体、男の方がセンスないプレゼントして、それを女が質屋に売るみたいな流れが定着してるけど」

 男性のプレゼント選びセンスなさすぎ問題について。

 兎蛍さんが問題提起をしてくる。


「いや、それを言ったら女性も男性にバスソルトとかアロマキャンドルとかイマイチ使いどころが分からないもの送ってくるし、何なら普段の使用状況一切把握してないくせに財布とか送ってくるし……」

「……送られた経験は?」

「……ないです」


 くそぉ、何で朝からこんな惨めな思いしなきゃいけないんだ。

「クリスマス、朝からとっても、苦しいです」

「……何それ川柳?」

「うん。字余り」

「クリスマスなんだからさぁ、川柳もまぁ悪くないけど、何かこう、ポエム的なものがいいんじゃない?」

「ポエムかぁ」


 僕は考える。


「クリスマスだね」

「うん」

「今年はどんなことをした?」

「おお」

「新しい年が来るよ」

「うんうん」

「君が楽しんでるといいな」

「いいんじゃない」


 さて、そんな感じで。



  クリスマスだね

  今年はどんなことをした?

  新しい年が来るよ

  君が楽しんでるといいな


  クリスマスだね

  僕は何ができたかな?

  一年が終わるよ

  来年も楽しいといいな



 ……うーん、こんな調子? 

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