夜の海を泳ぐには

この物語は、主人公が初デートの約束をすっぽかして失踪した先輩を探すところから始まります。そこから先輩の失踪事件に絡む「ロレム・イプサム」と呼ばれる異能力者との争いに巻き込まれ、さらに彼自身も能力に目覚め――と、異能バトルとサスペンスが上手く掛け合わされた良作です。

主人公である有動航は極度のお人よし。彼が「自動的」に人助けをする様は異常に見えるほど徹底しており、物語の最後で彼が選んだ生き方に衝撃を受ける人もいるでしょう(私はかなり落ち込みました)。
さらに有動くんに世話を焼かれていた先輩、性格に難ありな女上司、ホストの親友など魅力的なキャラクターがたくさんおり、「正義の味方」である佐備沼さんや敵である折口さんなど出番の少ない人物にもしっかりとした個性があって飽きさせません。

また、なぜ先輩が失踪したのか、異能力者たちの目的は何なのかというミステリの部分も上手く伏線が張られており、もう一度読み返すとキャラクターたちの印象がかなり変わりました。
キャラクターだけでなく、もちろん異能バトルの部分にも工夫があり、「ロレム・イプサム」の文字列が出るバトルシーンは視覚的にも非常にかっこいいです!人によって文字列の仕様も変わり、能力に似合ったものになっているのでぜひ見てほしいです。


物語の終盤、隠されていた事実が明かされ、有動くんは傷つきながらも自分の欲望に従ってある選択をします。
彼は大事なものを穴だらけにし、失いながらも自分の選んだ人生を歩んでいくのだと思います。その決意は寂しいものにも見えますが、この物語の締めくくりとして相応しかったのだと感じました。

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