届かないからこそ、欲

余人にあつかえない特殊能力の持ち主。けれどそれそのもので幸せになっている者が誰もおらず、どこか満たされないまま夜をさまよう人々が描かれている本作。
物語は主人公にさらなる欠落が発生していた、そういうところから始まる。
現代異能の例に漏れず闇夜に沈み異能を手にし組織的な戦いに巻き込まれる、そこまではセオリー通り。異能ものとして読み始めた人の期待に応える展開だろう。
しかし本作は異能ものであると同時にサスペンスかつミステリだ。私は欠落が発生「していた」と前置きした。
これの意味するところが複数の伏線を引き連れてくる中盤から終盤、頭脳を駆使した異能戦は次第に相手の欲をどう汲むか、どう扱うかの領域に及ぶ。
夜と海辺で掬った水も掬った手もいまや落ちて、なお残りつづけるものはなにか。選択の結末は、末尾の「用語解説」まで見届けてほしい。