第11話
僕の決意は心を軽くしてくれた。終わりが見えたことで、苦しみに耐える力が湧いた。それからというもの、僕は自分の気持ちを押し殺しながら、彼女の受験に向けて力を尽くした。ほぼ毎日のように教室で顔を合わせ、一日一回は必ず話しかけに行った。彼女の担当講師として少しでも役に立ちたいという思いと、彼女を好きな1人の人間として、ただただ話していたいという思いの両方があった。周りの生徒や先生に悟られないように平然と振る舞おうとするばかりに、冷たい対応をしてしまったと感じることも多々あった。そんなときは、本当に落ち込んだし胸が痛んだ。
受験までの日々は、幸せと苦しみの連続だった。同じ空間にいて、彼女と話ができることが嬉しかった。目を見て笑いかけられると、時が止まったように感じられた。その年の最後の授業の帰りのこと。
「来年はいよいよ受験だね」
「うん。もうやだー。」
「やっぱり不安?」
「不安だよ。たぶん無理。」
「そんなことない。頑張ってるし、絶対大丈夫だよ」
「うん」
「、、、いつもありがとね」
「え?どういうこと?」
「なんとなく。また来年!よいお年を!」
僕は彼女の目を見つめて、ありがとうと伝えた。言葉は一言だったけど、その目の中には色んな思いが込められていた。彼女はそれを感じ取ったのかもしれない。今すぐ好きだと言ってしまいたかった。あともう少しの辛抱だと、頭ではわかっているのに、心はおとなしく我慢してくれない。飛び出してしまいそうになる気持ちをなんとか押し殺しながら、僕は先生として彼女にできる限りを尽くした。そして、ついに運命の時がやってきた。
試験日を終えると、彼女は塾に来なくなった。結果が出るまではモチベーションが湧かないのは理解できるし、それまでのように自習に来ることは少なくなるのは当然のことだった。しかし、僕は気が気でなかった。もし、彼女が落ちてしまったとしたら、全て自分の責任だし、気持ちを伝える資格はないと考えていた。結果発表までの日々は、長くもどかしく過ぎていった。
一番苦しくて一番幸せな恋 橘 里樹 @g8218072
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