Epi-02 MAGICAL DREAMING FANTASY

「で……できたよ! アニキ! アネゴ! できたんだ!」



 自身の研究所で興奮気味に秀雄がタブレットに向かって話す。画面の向こうには蝶介と悠花がそれぞれ映し出されている。グループ通話というものだ。


「だから、もういい加減にアニキって呼ぶのはやめないか、秀雄」

「で、何ができたの?」


 画面の向こうからいつもの落ち着いた二人の声が聞こえるが、秀雄は興奮を隠しきれなかった。


「魔法だよ! ついにマジカル王国とつながることができるんだ!」




 夜も遅くだというのに、蝶介と悠花はそれぞれ車を走らせて秀雄の研究所までやってきた。彼の研究所内は一見普通の施設なのだが、地下に秘密があるのだ。三人は地下への階段を降りて秘密の部屋へとやってきた。

「これだよ」

 部屋の中には大きな鏡があった。そこに三人の姿が映し出されているが、時折その姿が歪んで見える。不思議に思って蝶介が鏡に手を伸ばすと、それは液体のように揺らめいた。


「ふふふ、びっくりしただろ。覚えているかな、姫の家に入るとき、河川敷のコンクリートの中に入っていったのを! あれを再現することができたんだ!」


 ああ、そういえばそんなこともあったなと二人は十年前のことを懐かしく思い出す。

 もしかしたらあの出来事は本当に夢か何かだったんじゃないかと思うこともしばしばあった。しかしこの三人の繋がりが、あの出来事は夢じゃないということを確かなものにしていた。

 そうでなければこの三人で関わることなんてなかったはずなのだ。強面の番長、番所蝶介。清楚な優等生で生徒会長、城ヶ崎悠花。孤高の天才、海原秀雄。何もかもがバラバラな三人がこうして十年以上の付き合いが続いているのは、やはり「魔法少女」の存在があったからなのだ。


(っていうか、それぞれ夏合宿の際に撮った写真を持っているんだけれども!)



「これをくぐれば……マジカル王国にいけるのね?」


 悠花の問いに白衣を着た秀雄が眼鏡を光らせる。

「理論上はね。だけど、これはゲームの通信対戦と同じようなもので……向こうからも同じようにして人間界への扉を開こうとした時にだけ繋がることができるんだ」


「ってことは、今すぐいけるってわけじゃないのか」蝶介が少し残念がる。あ、スーツを着てきたのはそういうことなのねと悠花が理解して微笑んだ。そういう悠花自身もばっちり化粧も服も決めてきていたのだけれど。


「あとは姫かマーヤ殿が向こうから魔法を使ってくれればいいんだけど……こればっかりは向こうの動きを待つしかないんだ。ごめんね、アニキ、アネゴ。期待させるような言い方をしてしまって。でも、いち早くこれが完成したことを二人には知らせたくて……」


 少し残念そうな秀雄の顔を見て、蝶介が彼の肩にポンと手を置いた。


「きっとリーサたちも考えは同じはずだ。きっと繋がるさ」

 うんうん、と悠花も笑顔でうなづいた。



 ☆★☆



「リーちゃん! マーちゃんが呼んでるよ! 今すぐじいじたちの部屋に来てって」


 お城の最上階で外を眺めていたリーサのもとへ、ゆうちゃんが駆け足でやってきた。おそらく地下からここまで走ってやってきたのだろう。はあはあと息をしながら、手を膝についている。


「もう、ゆうちゃんったら魔法で移動すればいいのに……」


 疲れているゆうちゃんを見ながらリーサが言うと、ゆうちゃんは「だって、体力をつけるのも大事なことなんでしょ? マッスルのおじいちゃんが言ってた」と額の汗を拭いながら答えた。


 むふぅ! なんて可愛い子なのかしら! 今すぐぎゅーってしてあげたい! なんてことを考えているのがバレないように、きりっとした表情でリーサはゆうちゃんの手を引いた。


「じゃ、地下までねえねと競争しよっか。ゆうちゃんまだがんばれる?」

「うん!」


 二人はきゃっきゃっ言いながら、お城の最上階から地下まで走った。




「お姉様! ついに、ついに完成したのですわ!」


 地下に到着するや否や、マーヤが興奮気味に話を始める。かつて夢食いを封印していた台座の前に、青白くも暖かい光の渦が発生していた。

 ああ、マーヤがまた新しい魔法を開発したのね……今度は一体何かしら? とリーサは状況を理解した。しかし……なんだかじいじとばあばたち精霊のみなさまの様子もいつもと違ってちょっと緊張気味だし、ゆうちゃんは嬉しそうだし、マーヤもうずうずしているし……なんだろう? と思って彼女は訪ねた。

「完成したって、何が?」



「いくーかん魔法、だって!」

「もう! ゆうちゃん! 私がお姉様に言おうと思ってたのに!」


 ゆうちゃんが嬉しそうに秘密を漏らしてしまった。マーヤが眉を下げながら、ゆうちゃんに頬擦りする。ちょっと状況が理解できませんといった表情のリーサを見て、マーヤが言葉を付け加える。


「異空間魔法ですわ、お姉様! これで人間界とつながることができるのです!」

 マーヤもゆうちゃんと同じく嬉しそうに、そして誇らしげに胸を張った。


「マーヤちゃん、この十年ずっと頑張ってたもんなぁ!」

「うんうん」


 ミックスアイじいじの言葉にマッスルじいじ、センチュリーじいじ、クリスタルばあばも感慨深くうなづく。その様子から、これまでの相当な努力がうかがい知れた。



「これをくぐれば……人間界にいけるのね?」

 さっそく光の渦の中に入ろうとするリーサに、マーヤが待ったをかける。


「一応……完成したことは完成したんですが……まだまだお母様のような完成度には至っていなくて……向こうからも同じようにして魔法界への扉を開こうとした時にだけ繋がることができるのです」


 ぬか喜びさせてごめんなさい! でも、いち早くお姉様にお伝えしたくて! と頭を下げるマーヤに、リーサが優しく声をかける。


「大丈夫……きっと蝶介たちも考えは同じはずよ。きっと繋がるわ」




 その時だった。


 マーヤの異空間魔法が強い光を放った。「なにこれ!」「わかりません! みなさん気をつけて!」

 秀雄の作った魔法の鏡が強い光を放った。「おい、秀雄! どういうこったこりゃ?」「わかんないっす、アニキ!」「二人とも気をつけて!」


 まばゆい光がマジカル王国の地下の一室と、秀雄の地下にある研究室にあふれ出す。信じることをやめなかった結果、奇跡は……起きたのだ。



  

 今も思い出す 夢のようなあの日々を

 憧れていた 魔法少女になって 空を舞う 仲間とともに

 魔法の国は 本当にあるのよ 目には見えないけれど

 信じることをやめてしまえば 消えてしまうから

 MAGICAL DREAMING FANTASY

 いつかまた 必ず会えると信じているわ

 いつかまた あの日のように みんなと笑いたい

 MAGICAL DREAMING FANTASY



 魔法少女マジカル☆ドリーマーズ 完

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魔法少女マジカル☆ドリーマーズ まめいえ @mameie_clock

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